琉球人は訴える「遺骨返還は主体回復の運動である」

『琉球 奪われた骨――遺骨に刻まれた植民地主義』松島 泰勝 (著) 、岩波書店 (2018/10/11)

9月28日(土)に「琉球人遺骨返還請求訴訟を支える会/関東」結成の集いが、水道橋のYMCAアジア青少年センターで開かれ80名が参加した。裁判支援の組織はこれまで沖縄、大阪、奈良、滋賀で結成されている。集会は最初に遺骨返還請求訴訟のニュース映像を上映し、裁判の原告団長でもある松島泰勝氏(龍谷大学教授)が講演した。その後結成総会に移り、趣意書、規約、役員を採択。共同代表に青木初子さんと上村英明さん、大仲尊さん、外間三枝子さんが就き、顧問として照屋寛徳衆議院議員と伊波洋一参議院議員が就任した。

今帰仁村運天集落の崖の中腹に佇む百按司墓 今帰仁村運天集落の崖の中腹に佇む百按司墓。第一尚氏時代の貴族たちの遺骨が眠る (琉球朝日放送より)


琉球人遺骨返還請求訴訟とはなにか。

1928年~29年にかけて、京都帝国大学助教授金関丈夫が、沖縄島本部半島にある今帰仁村(なきじんそん)の百按司(むむじゃな)墓から遺骨を持ち出し、26体を「人骨標本」として京都帝国大学に寄贈した。

松島泰勝氏が2017年に京都大学総合博物館に対して遺骨の問い合わせなどをしたが、大学側は全て拒否した。2018年2月には国政調査権により、箱に琉球人の骨を収めていることを認めた。12月、百按司墓の祭祀継承者である第一尚氏の子孫の2人と松島氏と照屋寛徳衆院議員、彫刻家の金城実さんの計5人が原告になって、遺骨を保管している京大に遺骨返還と損害賠償を求め、京都地裁に提訴した。

 2018年12月京都大学を相手取り遺骨返還訴訟を起こした(琉球朝日放送より)

2018年12月京都大学を相手取り遺骨返還訴訟を起こした(琉球朝日放送より)

■松島泰勝氏の報告

これまで琉球民族遺骨返還請求訴等の事件は、法廷内で審理されてきましたが、今年の7月以降、法廷外でも動きがでてきました。遺骨の返還・再風葬に反対する日本人類学会の要望書が京大に対して提出されました。京大と同学会の幹部が共謀して、裁判を有利にしようとする策動です。遺骨を百按司墓に戻すのではなく、沖縄教育委員会や施設などにおいて大学や博物館等の形質人類学者が遺骨の研究をおこなうための道筋づくりではないか、との疑念が拭えません。

また京大・山極寿一総長が「この件を訴えている方は問題のある人と承知している」と発言しました。私は自分である受け止め抗議文を送付しました。これは山極寿一氏が日本学術会議会長としての権力を背景にして封殺や圧力を企図しているのです。それから私の研究について、杉田水脈衆議院議員が『八重山日報』に「税金で<琉球独立>主張」と非難し恫喝してきました。その影響があると思われます。

これまで山極総長は被告でありながら一度も被告席に座りませんでした。山極総長は京大の「形質人類学者」による植民地主義を当事者として、どのように考えるのかを法廷であきらかにする道義的、社会的、法的責任があるでしょう。

この訴訟の目的は琉球人骨の琉球への返還、再風葬です。それとともに「明治以降から現在に至る日本国家・社会の琉球・沖縄に対する植民地支配、植民地主義という歴史の清算の問題であり、歴史的・構造的に形成された差別を強要し、植民主義政策を推し進める日本国家・社会に対して、琉球民衆の民族的、文化的、宗教的アイデンティティの確立と自己決定権確立に向けた闘いである」と捉えています。

遺骨返還の受け入れ機関の問題ですが、参考になるのはアイヌ民族の「コタンの会」です。遺骨の再埋葬とともに、遺骨に対する祭祀、先住権の回復運動を実施するための団体です。このような機関を検討します。琉球民族も国連の各種委員会に参加して植民地主義、基地問題、人権問題を訴えて、世界の先住民族との連携も強化してきました。

9月に裁判の弁護団を中心として研究者、支援団体、京大学生、地域住民を交えて合宿を行いました。相互に意見交流をしました。

先住民運動、琉球の祭祀・文化について、大学での遺骨調査研究の実態、アイヌ人骨問題、琉球における皇民化教育の意味、近代日本とハンセン病、日の丸焼却裁判、靖国神社合祀取り消し訴訟、など多彩な発表・報告がありました。最後に辺野古反対運動の現場を訪問しました。

本訴訟は以下の法律に基づき京大の不法行為を主張しています。憲法13条:自己決定権、民族的・文化的・宗教的アイデンティティの権利、憲法20条:信教の自由、民法の897条1項、自由権規約第27条、先住民族の権利に関する国連宣言、自由権規約委員会の勧告、人種差別撤廃員会の勧告、その他にも刑法188条、189条、190条、191条、文化財保護法の第1条などです。

ご先祖の遺骨を墓に戻し、祭祀を行いたいという琉球人の信仰、慣習は人間として当然の権利です。しかし、日本の植民地主義が継続しています。琉球人の人権を蔑ろにしても研究、資源と蓄積をしても構わないという、それが京大においては提訴後にも微動だにしておりません。

このような現代に続く植民地主義の闘わなければ、米軍基地問題と同様に琉球人は下級として差別されるでしょう。日本の政府や大学による植民地主義を止めさせることは日本人自らにとっても人間として不可欠な課題であります。学知の植民地主義と闘い、琉球の脱植民地化の闘いに参加してください。

(要旨:文責編集部)

裁判の原告団長でもある松島泰勝氏(龍谷大学教授)

裁判の原告団長でもある松島泰勝龍谷大学教授(琉球朝日放送より)


■参考
琉球人遺骨返還請求訴訟を支える会
https://www.facebook.com/pg/ryukyuikotsu/posts/