戦後世界と日本のこれから――考えるためのいくつかの本

本・書評

世界的に近代化の臨界ともいうべき問題が噴出しているような気がします。アメリカ大統領選挙でのトランプ現象や欧州の難民問題、イギリスのEU離脱などこれまで理念的に正しいとされてきたことが、あからさまに利害をむき出しにした「本音」の声に対応せざるを得ない情況になっています。日本においても数年前からの9条改憲、歴史修正主義の動きがあきらかとなってきました。これは国際情勢と日本の経済状態に影響されたことも多いのですが、その要因はもともと戦後から孕まれていたものではないでしょうか。つまり戦後憲法が左右の政治的思惑の矛盾を内包していた(天皇制と戦争放棄)ことが原点ではなかったかと。その問題を考えるうえでいくつか本を紹介していきたいと思います。

「安定は、希望です」とは公明党のキャッチフレーズですが、これが魅力ある言葉かどうかはさておき、現代社会は不安定さが増しているわけで、それに不安を感じるからこそ、現政権が支持される訳です。今日の日本周辺の安全保障をめぐる環境と国際的にも経済不振が、安倍政権を有利に運び、強化しています。北朝鮮・中国への敵視政策やアベノミクスによる景気刺激策の期待幻想。これらが現政権をよりまし的なものとさせていると思います。

■戦後とはどういう構造だったか

アメリカ大統領選の結果はトランプの勝利となりました。すぐさま安倍首相は面会に向かいました。現政権はアメリカのご機嫌を伺いつつアジアへの侮蔑意識を保持しています。過去の歴史をなんとか正当化しようとしつつ、西側陣営の一員であることを強調しています。自由と民主主義を謳いながらかつての日本を取り戻すというのは、二律背反的な矛盾した存在です。それは戦後一貫して保守勢力がかつての大日本帝国の原理を継承しているから、という指摘もあります(『戦後レジームと憲法平和主義』武藤一羊 れんが書房新社)。

課題としては「日米同盟」という前提=幻想からの脱却なのですが、<日米安保=同盟>が是とするのであれば、沖縄にある基地を日本国内で引き受けるべき(高橋哲哉)、という主張自体も受け入れることのできない(認められない)ない存在であると理解するしかない現実です。しかし沖縄に集中している米軍基地はリアルに脅威であり<日米安保>への疑問を感じているのは沖縄の民衆です。かつての「砂川」など反基地の闘争が本土でも盛んにあったことは記憶されています。

確かに戦後に革命というべき闘争もあり、労働運動の高揚もあったのですが、GHQの政策の紆余曲折により左右のバランスをとり結局は当初の目的であった「親米的な国家へ創り変えること」を進めていったのが現実です。これについては『永続敗戦論』白井聡(大田出版)が詳細に展開していますが、確認すべきは「対米従属」というキーワードではないでしょうか。

1945年の八月十五日以後、日本は連合国に敗北しポツダム宣言を受け入れた。それ以後は米国による占領下による民主化のなかで、51年サンフランシスコ条約と安保条約に調印した。結局のところ<サ条約>はアメリカに顔を向けたものであり、アジアを一顧だにしないものであった。ここが原点なのだと確認したい。これがいまでも尾を引いていて極東の戦後処理が済んでいないことを認識すべきでしょう。

丸山真男は「自由なる主体が生まれた八・一五革命説」を唱えてGHQ占領以後の戦後民主主義を評価したようですが、「戦前との断絶を強調することにより占領体制とその継続から生まれる諸矛盾が見えなくなってしまう危険性」(『八月十五日の神話』 佐藤卓己 ちくま文庫)を考えれば、戦後民主主義を更新、ないしは発展させるという立場に立てる筈ですが、その後の変遷のなかで埋没してしまったようです。


■平和を求める立場「人間の安全保障」

さて冷戦崩壊後、米国一強の世界から多極化へと移行しようとしていますが、それは資本主義システムの中心が揺らぐことであり、政治的・経済的覇権の争いが顕在化していくことでもあります。それは戦争の危険性もあります。東アジアにおいては戦争・植民地後の冷戦が継続しています。これを米国のこれまでの武力による自由貿易体制の堅持(自国企業の利益優先擁護)の継続体制なのか、進歩的な形態(民主的で労働者と民衆を主とする階級的な連帯を優先擁護)をすすめるのかが問われてくると思います。

経済的領域と政治的領域の問題が別個にあることが、実はかならずしも別なものとしてあるということではない、ということを確認していくことが重要になってくるでしょう。さしあたり、レーニンのように政治闘争と経済闘争を主張するのは原点ではありますが、現代の闘争においては地域住民の人権に基づいたたたかいというものがおおきな位置を占めているように思います。私の理解では、それは近年「人間の安全保障」(アマルティア・セン)として表現されているような国家を超えて、国際的な基本的な<生存のための人権>が国家を超えて保障されるべきである、という思想が西欧・先進国だけでなく国境を超えて了解されているということであり、地域紛争な利害対立を平和的に調整していこうという理解にもつながっているでしょう。

既存の体制に対抗するには希望の原理がなくてはならない、と思っています。国の内外で「日本が一番」を復唱し排外主義を強化し視野狭窄の国民を創生させようとしてゆく傾向に、まさに憲法の「平和主義」に依拠しつつ人間性の回復、そして共同と連帯を求める人々を結集させなくてはならないでしょう。未来社会の展望を探っていくと同時に現代の複雑で多様な問題には集合的で人間的な栄知の結晶が求められます。それを示してるのが「3.11の震災後」の社会であり、自然(災害)・科学(原発)・政治(正義)のあり方が問われているのだと思います。
(本田一美)