戦争と核に抗う表現者たち―俳句を中心として

東京都美術館講堂でおこなわれた講演

東京都美術館講堂でおこなわれた講演


5月4日~10日に第15回九条美術展が上野の東京都美術館で開催され、5月6日に講演会「戦争と核に抗う表現者たち」が開かれて永田浩三さんが登壇した。主催は九条美術の会で約180名が参加した。

永田さんは1954年生まれ、NHKでドキュメンタリーを制作。2009年から武蔵大学で教鞭をとり、武蔵大学名誉教授。冒頭、講演のまくらに美術展のいくつかの作品を紹介しつつ感想を述べて、2.28以降のイスラエル・米国のイラン攻撃に言及しつつ本題に入った。

ベン・シャーン版画集『一行の詩のためには - マルテの手記より』(1974, NY, 24 plates) booksandthingsより

ベン・シャーン版画集『一行の詩のためには – マルテの手記より』(1974, NY, 24 plates) booksandthingsより


「戦争と核に抗う表現者たち」■永田浩三さん

ベン・シャーン(1898-1969)はリトアニア出身でラッキードラゴンシリーズ(第五福竜丸事件に心を痛めて1960-1962年にかけて制作した連作絵画)が知られている。反核運動に参加し非米活動委員会で査問される。「一遍の詩が生まれるためにはたくさんの町を見なければならない…」ベン・シャーンはこの言葉に打たれ、リルケの「マルテの手記」の絵本を出している。これに添えられた絵は、ヒロシマの惨状で鉄骨で曲がった家をイラスト化したものだ。

ベン・シャーン版画集『一行の詩のためには - マルテの手記より』内のモチーフをヒロシマの家であろうイラスト booksandthingsより

ベン・シャーン版画集『一行の詩のためには – マルテの手記より』内のイラスト。モチーフをヒロシマの家であろう (booksandthingsより)


母は戦前、東京大空襲に遭い、その後は広島へ移り、そこで原爆に遭遇した。祖父は地元・広島のオタフクソースの開発に関わっていた。母は食料学校を出て小学校の教員として雇われていた。まかないため、たまたま遅番で自宅にいた。家族は川に逃げていった。母の妹は勤労奉仕に出かけて被爆し亡くなった。

俳句についてだが「五月雨や大河を前に家二軒」は、江戸時代の俳人・与謝蕪村の作品。俳句は写生リアリズムというように、自然の情景をそのまま言葉にしていた。

そして正岡子規は陸羯南の新聞「東京電報」に入社し俳句や短歌の革新運動を展開した。

京都では昭和時代初期に京都帝国大学の出身者らが中心となって創刊した俳誌『京大俳句』(1933~1940)と俳句革新運動があった。主宰を置かずに同人ではなく会員制で、1000部完売していた。

1940年の「京大俳句事件」により関係者が検挙され、廃刊に追い込まれた。代表的俳人として西東三鬼、渡辺白泉、中村三山がある。
 
 <戦争が廊下の奥に立ってゐた> 渡辺白泉
 
原爆について被爆地取材したのはバーチェット記者で、被爆の惨状を世界に報じた。その後は報道の規制を受けて、報道がなくなる。

太田洋子は報道規制の中で小説『夕凪の街と人と』、原民喜は『原爆小景』『夏の花』を書く。正田篠枝は被爆経験を短歌で詠んだ。「にんげんをかえせ」の峠三吉(詩人)は、四國五郎(画家)と活動を共にした。

1949年の広島平和大会(第3回平和祭)では参加者の半分が在日朝鮮人だった。ここで初の原子力兵器の決議がおこなわれて、これは1955年の原水禁大会よりも早かった。

1950年に朝鮮戦争がはじまると広島平和大会は中止となったが四國五郎は8月6日にビルの屋上からビラを撒き、5分間の集会をおこなった。長崎では松尾あつゆきが自由律俳句で原爆を詠んでいる。

1954年に「ビキニ事件(第五福竜丸事件)」が起きて、久保山愛吉さんが亡くなる。市民が原水禁運動に参加し、56年に被団協が生まれる。

1955年には句集「広島」が出された。公募も含めて674名から1521句が一冊にまとめられた。金子兜太、西東三鬼、鈴木六林男なども収められている。赤ちゃんを抱く母親の姿が多く表現されている。

<蝉の穴ばかりみていた玉音>

<耳鳴りのふいに軍歌となる炎天>

原爆の絵の描を運動がある(『次世代と描く原爆の絵』プロジェクト)。高校生たちが被爆者に話を聞いて絵をつくりあげる。広島市の立基町高等学校普通科創造表現コースの高校生たちが、被爆体験者に話を聞いて何度も打ち合わせながら制作されたものだ。

今、国会前などで若い人たちが憲法をまもれと集まってきている。また、そこでは各々の自由な表現がある。まだ俳句や川柳などにも可能性があるだろう。専門の人、未経験の人もいる。多くの人々が参加してきている。そこに希望がある。

(文責編集部)

句集「広島」 (東京新聞デジタル2023年8月24日 より)

句集「広島」 (東京新聞デジタル2023年8月24日 より)

原爆と俳句/永田 浩三 /大月書店/2024

原爆と俳句/永田 浩三 /大月書店/2024