危機の時代に<左翼ポップバンド>? A-Musikを聴きなおす

A-Musik – E Kú Ìrójú
(Didcogsより)
https://www.discogs.com/release/784791-A-Musik
ある会合で、歴史学者が戦前の日本社会の話に及び「日本ファシズム」という名称について、そもそもファシズムだったのか、と疑念を呈した。続けて資本主義の危機的状況としては今日のほうが、はるかにその状況に合致していると語った。続けて展開してみたい話ではあるが、今日のファシズム状況については大いに同感で、この世界的な危機的状況への対応としての排外主義・自国優越意識・反動超国家主義は分節化されて現れている。それが参政党、維新の会、保守党でありネトウヨである。
このような不快な状況のなかでどう反撃を構想すべきか。マスコミ・ジャーナリズムは戦前と違いそれなりに機能・発信はしているが、所詮は国家意思の範疇内であり、日々資本主義の腐朽性により脆弱となって、それがポピュリズムやSNSにより圧迫されている。なんとか思想的な武装とともに精神の平穏を保ちたいが、日々の支配的情報に晒されている我々に拠って立つ居場所はあるのだろうか。
難しい問題だが、過去の歴史や事例を知って勇気を得ることは可能だ。あるいは音楽を聴いて力を感じることもできるだろう。私は普段、作業しながら音楽を流しているが、昨今のラジオよりも快楽があるからだ。そのようなBGMという機能的音楽とは別に、音とその背景を想像してみよう。時にはそのように音楽に向き合って聴いてみてはどうだろうか。そんな風に思ったのは、SNSで「A-Musik」(アー・ムジーク)のライブを発見したからだ。
SNSの情報とは台東区・入谷にあるギャラリー&ライヴスペース『なってるハウス』でのライブ告知で、ここでは定期的にフリージャズなどの演奏をおこなっている。
ほんらいこの原稿はそのライブ演奏を聴いた感想を書く予定だったが、情報を知って申し込みをしようとした段階でソールドアウト(!)だったので、残念ながらライブについての報告はできない。ただし、このような政治的な音楽の試みや社会的な意思のある音楽についての紹介として意義があるかなと、さらに今も活動を続けているという事実を知り、嬉しく思い書いている。
"鳴ってるのは、音か、あなたか。"
・TI’PUNCH
・A-MUSIK
@合羽橋なってるハウス
出演者が多くて客席は満席、空調が故障中で店内は茹だるような暑さ。山崎春美さん、高田洋介さん、天神直樹さん、昨年末の月花舎忘年会でご相席した山本恭子さん等が在籍するフレンチカリビアンのティポンシュは初見。 pic.twitter.com/DuHJedtvh2— Yoshihisa Kaneko (@base361086) May 25, 2026
「A-Musik」とは音楽評論家・演奏者の竹田賢一氏が主宰する音楽態で、世界の社会・解放運動のなかでつくられた曲などを演奏していた。
竹田賢一氏は1970年代からフリージャズや前衛音楽の分野で活動をはじめ、フリーな音楽を評論・発信していた。坂本龍一との協働などもおこなっている。私も彼の吉祥寺のライブハウスでのレコードコンサートに参加したことがある。「A-Musik」についても、同時代にいくつかのイベント・ライブに接している。確か法政大学学館のいくつかのライブを聴いているし、思い出したようにライブに接したりすることがある。
記憶だと最後に演奏を聴いたのは、2001年、吉祥寺のスターパインズカフェでウィレム・ブロイカーコレクティフの来日公演の前座のときだ。ブロイカーはやはり労働者階級へのスタンスを明確にしたオランダのジャズ・ミュージシャンだが、これらの話はまた別の機会に…。
「A-Musik」は1981年結成で、84年に『e kú ìrójú』(エクイロジュ)というレコードが発売された。このなかでブレヒト/ハンス・アイスラーの作品や「不屈の民」が演奏されている。ジャケット裏には次の文が記される「このレコードを権利者の許諾なく、テープ・その他に録音・複製し、あるいは演奏することは、われわれの歓迎するところです。」。そして、『生きているうちにみられなかった夢を』<β version>が2000年代に発表された。現在公式サイトで『e kú ìrójú』も含めて公開されている。また、YouTubeでも聴けるので検索してほしい。
このサイトには「A-Musik」のレパートリーや演奏記録(1981年~2007年)などが掲載されている。ぜひアクセスして聴いてほしい。サイトには全部ではないが曲の解説もある。ここで屋上屋を重ねるつもりはないが、気になった曲をいくつか紹介したい。
『e kú ìrójú』から、1曲目の「不屈の民」はチリのアジェンデ政権を支持する曲としてつくられ、その後は世界のあらゆる場所で社会・民衆運動のなかで歌われ、演奏されている。原題はスペイン語<¡El pueblo unido, jamás será vencido!>「団結した人民は決して敗れない!」で、ジャズのチャーリー・ヘイデンのリベレーションミュージックオーケストラが演奏している。フレデリック・ジェフスキーがこれを元に変奏曲を書き本人も演奏し、高橋悠治もレコードを出している。
「前進~統一戦線の歌~プリパ」のメドレーだが、「前進」は映画『クレ・ヴァンペ』 (1932年)の主題歌で、ブレヒトが脚本を書いているプロレタリア映画。続いて「統一戦線の歌」は反ファシズムの曲(1935年の第1回国際労働者音楽オリンピックで制作)でともにベルトルト・ブレヒト(詞)、ハンス・アイスラー(曲)のコンビ。フリー・ジャズのペーターブレッツマンも「統一戦線の歌」を演奏している。
プリパは、韓国の民衆運動のなかで「われらはプリパ(根っこ派=ラディカルズ)だ」と歌われたもので、2017年の韓国映画『タクシー運転手』でも聴くことができる。元はアメリカ民謡「ジョニーが凱旋するとき<When Johnny Comes Marching Home>」だ。
日本では篠田昌巳のコンポステラが演奏している。
3曲目の「自殺について」は『セチュアンの善人』(1943)の劇中歌で、やはりベルトルト・ブレヒト(詞)、ハンス・アイスラー(曲)のコンビ。
4曲目はハリー・ウォーレン(曲)、マック・ゴードン(詞)のジャズスタンダードで、チェット・ベイカーの演奏(1954年)が有名。
<A-Musik>『e kú ìrójú』(エクイロジュ)
Red Chrysanthemum Side
1. 不屈の民 El Puebro Unido Jamás Será Vencido
2. 前進~統一戦線の歌~プリパ Vorwärz – Die Einheitsfrontlied – P’urip’a
3. 自殺について On Suicide
4. ゼイ・ウィル・ネヴァー・ビーアナザー・ユー There’Wi
ll Never Be Another You
5. アイ・ダンス I Dance
Black Chrysanthemum Side
1. 反日ラップ Anti-Jap Rap
2. エル・ビト El Vito
3. ぬかるみの兵士たち Die Moorsoldaten
4. ニルリリヤ Nilririya

大正琴を演奏する竹田賢一氏。1992年12月、サーブリーンの日本ツアー時のもの
(https://palarchive.org/より)
いっぽう『生きているうちにみられなかった夢を』 (1995/2006)はホームページから聴けるが、曲が分散されているので、末尾にまとめておく。内容的には演奏の情動感やグルーヴ度などでの聴きどころ多し。
「預言者の死」はパレスチナのグループ「サーブリーン(Sabreen)」の曲で、92年に来日したときに共演している。
「クレズモリム」とはクレズマ音楽家たちのことだが、曲は(Der glater bulgar)でユダヤ系アメリカ人のクラリネット奏者であるデイヴ・タラス(Dave Tarras)の代表曲。 主に東欧のユダヤ人の(イデッシュ)民俗文化の音楽をクレズマと呼んでいる。
「レーニン」(1937年)はブレヒトの詩に曲をつけたもので、レーニンの死を悼みつくられた。アイスラーはコミュニストの作曲家として有名だが、米国へ移ってからは、ジャズソングや映画音楽など大衆音楽へ比重が移った。近年ではドイツ映画『グッバイ、レーニン!』(2002年)で劇中音楽やモチーフとして使用されている。
「平和に生きる権利」ビクトル・ハラの曲でソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が唄っている。もちろん中川本人のバージョンも有名だ。
「イミ・アトゥ・バ・ネベ:Imi atu ba ne’e be」は「どこへ行くの?」という意味。東ティモールの民謡だが、独立運動期に革命歌としても歌い継がれた。ちょっとカリプソを想わせる雰囲気の曲。ワールドミュージックでも広く知られる。
世界や日本の現状・消費社会の現実を「資本主義リアリズム」(マーク・フィッシャー)として絶望するよりも、労働者・人民のたたかいのこれまでや格差の現実を知ることが求められているのではないか。特に今の社会から不適合者として認定されるのではないかとおそれている人にはよりおすすめなのだ。
(本田一美)
A-Musik 軌跡
(生きているうちにみられなかった夢を)
http://am.jungle-jp.com/history.html
A-Musik – 生きているうちに見られなかった夢を <β Version> (1995/2006)
01. 預言者の死 Death Of The Prophet
02. ロンドンデリー Londonderry
03. 忘れ酒 Ap Ton Kay Mou Pimo
04. クレズモリム Der Glater Bulgar
05. レーニン Lenin
06. 歩きつかれて Weary From The Long Walk
07. 生きてるうちに見られなかった夢を The Dream You Couldn’t Dream In Your Lifetime
08. イミ・アトゥ・バ・ネベ Imi Atu Ba Ne Be (Did You Get Many Prawns)
09. 平和に生きる権利 El Drecho De Vivir En Paz (The Right To Live In Peace)
10. カールスプラッツのポプラの木 Die Pappel Vom Karlsplatz
11. 鳥の歌 El Canto Des Ocells

