「日の丸」はいかに支配・抑圧のシンボルとして機能してきたか

満州国建国の行事に子どもたちが旭日旗、日の丸、満洲国の旗を掲げている

満州国建国の行事に現地の子どもたちが旭日旗、日の丸、満洲国の旗を掲げている(TBS NEWS DIGより)

7月11日(土)14時より緊急シンポジウム <「国旗損壊罪」はなぜ問題なのか―歴史研究と歴史教育の立場から―>がオンラインで開催された。主催は日本史研究会。共催は日本歴史学協会・歴史学研究会・歴史科学協議会・歴史教育者協議会・日本史研究会・子どもと教科書全国ネット21。

以下シンポジウムの案内を紹介する。

 「国旗損壊罪」は、様々な問題を指摘されながらも、多くの国民からの疑問や反対の声を無視して、衆議院を通過してしまいました。しかしながら、国旗への敬意を強制するのは思想信条の自由への侵害であること、また特に戦前の日本においては国旗は民衆を戦争に動員する際に用いられ、植民地の人びとにも強制されるなど、国家主義・軍国主義のシンボルだったという歴史的事実を踏まえると、歴史研究や歴史教育の立場からはこの問題を座視する訳にはいきません。なぜ「国旗損壊罪」が問題を含むものであり、なぜ歴史研究や歴史教育に携わる私たちは「国旗損壊罪」に反対するのか。報告者それぞれの立場から、この「国旗損壊罪」の持つ問題点や危険性について報告していただき、参加者と議論を深めたいと思います。

【報告者】
本庄十喜(日本近現代史研究の立場から)
加藤圭木(朝鮮近現代史研究の立場から)
鈴木 毅(都立高校の教育現場から)
コメンテーター:複数

シンポジウムのはじめに各共催団体からの挨拶があり、主旨説明がおこなわれた。

本シンポジウムは、現在国会で審議中の「国旗損壊罪」(国旗損壊処罰法案)に対して、歴史学・歴史教育の立場から批判的に検討することを目的として、日本史研究会・歴史科学協議会・日本歴史学協会・歴史教育者協議会・子どもと教科書全国ネット21など六団体が共催する形で緊急開催された。

「国旗損壊罪」は法律論上の瑕疵(立法事実の欠如・罪刑法定主義への抵触)以前に、思想・信条の自由を正面から侵害する法律であるということを押えておきたい。

日の丸・君が代が背負ってきた歴史的役割を歴史学の立場から検証し、現代でも思想信条の自由が抑圧されてきた。それを含めて今回検討したい。

修身教科書。絵での説明しかない(当日資料より)

修身教科書。絵での説明しかない(当日資料より)


報告①:日本近現代史の立場から(本庄十喜氏・北海道教育大学)

日の丸の法的位置づけの変遷について、明治32年の船舶法で「日本の国旗」という文言が初めて登場したが、日の丸であるとの明示はなかった。

1924年の次官会議決定でも同様に明示なし。戦前・戦中を通じて法制化されないまま、慣習法として国民的確信が形成されていった。

学校教育により日の丸の浸透があった。1941年以降の国民学校期の国定教科書(修身・国語・音楽)を調査している。修身教科書では「敵の城に日の丸の旗が高く翻りました」など、軍国主義的文脈で日の丸が描かれた。

「支那の子供」という国語教材では、占領地の中国人子供が日の丸の歌を歌う場面が描かれた。教師用指導書には日の丸の掲揚方法・形状比率まで詳細に記載されていた。

社会的統制システムとの連動した。満州事変以降、国防婦人会・治安維持法・隣組制度などの相互監視システムが構築された。

東亜日報が孫基禎(ソン・ギジョン)のユニフォームの日の丸を消した写真を掲載し、新聞紙法により9ヶ月の発行停止処分を受けた事例が示すように、日の丸への不敬は弾圧の対象となった。

1位ゴールして毛布を掛けられて放心状態の孫基禎(youtubeより)

1位ゴールして毛布を掛けられて放心状態の孫基禎(youtubeより)


「日の丸」が消された東亜日報

「日の丸」が消された東亜日報(箱根駅伝と朝鮮人ランナー:一松書院のブログより)
https://ameblo.jp/onepine/entry-12719233232.html


結論:日本は戦前・戦後を通じて同じ日の丸を使い続けており(ドイツ・イタリアとの対比)、植民地支配・侵略戦争・天皇制軍国主義への批判や痛みを持つ人々が国旗に敬意を持たない歴史的経緯が存在する。国旗損壊罪はこうした歴史認識の表明の自由を奪うものである。

報告②:朝鮮近現代史の立場から(加藤圭木氏・一橋大学)

朝鮮侵略の最初期における国旗掲揚について、1875年の江華島事件(永宗鎮攻撃)の際、日本海軍が占領地に御国旗(日の丸)を掲揚した記録が残っており、侵略の象徴としての国旗掲揚は近代日本の最初期から行われていた。

植民地支配下での国旗強制と抵抗があり、1907年の韓国皇帝巡幸の際、各地で日本国旗掲揚への拒否・反対が相次ぎ、義州では掲揚された日本国旗が夜半に切断される事件が発生した。

義州で歓迎会場に掲揚された日本国旗が夜半に切断されるという事件を伝える日本の新聞(当日資料より)

義州で歓迎会場に掲揚された日本国旗が夜半に切断されるという事件を伝える日本の新聞(当日資料より)


1910年の韓国併合後、朝鮮王宮・景福宮に日の丸が掲揚され、日本の支配が可視化された。昭和天皇即位の礼(1928年)の際、平壌では警察が国旗掲揚状況を徹底調査し、強権的に掲揚させた。

朝鮮人は弔旗の掲揚・紙製国旗の破棄・国旗の焼却・隠蔽などの形で抵抗した。

二〇〇九年にソウルの慈恩庵寺、お寺の解体復元工事の際に、仏壇の内側から発見された太極旗。朝鮮の旗で、現在の大韓民国の国旗ですけれども。

よく見るとわかるんですが、これ、日の丸の上に太極旗を上書きしてるんですね。

二〇〇九年にソウルの慈恩庵寺、お寺の解体復元工事の際に、仏壇の内側から発見された太極旗。日の丸の旗に上書き、書き足して太極旗に(当日資料より)


日の丸を上書きした太極旗。2009年にソウルの寺院解体工事で発見された太極旗は、日の丸の上に上書きして作られたものであり、三・一独立運動(1919年)の際に使用されたと推定される。この旗の存在を韓国独立記念館の職員が「申し訳なさそうに」説明していたことに、日本社会における国旗崇拝の圧力が反映されている。

最後に「日本軍慰安婦」制度の被害者にとっての日の丸の意味を考える。最初に告発したキム・ハクスンさんは「日の丸を見ただけでも足が震えが来る」と証言した。カン・ドッキョンさんは「憤り」と題した絵に日の丸を突き刺す表現を描いた。

右の絵は日の丸を突き刺していて、そこから血が出されていて、その下に頭を下げる天皇の様子が描かれている(当日資料より)

→の絵は日の丸を突き刺していて、そこから血が出ていて、その下に頭を下げる天皇の様子が描かれている(当日資料より)


結論として国旗損壊罪は、侵略への抵抗としての国旗損壊行為の意義を否定し、歴史修正主義の影響力を強化する政治的効果を持つ。侵略の象徴である日の丸を国旗とし続けること自体が歴史否定であり、国旗損壊罪の制定は重大な事態を招く。

報告③:都立学校の教育現場から(鈴木剛氏・八王子拓真高校)

●国旗・国歌強制の段階的強化

1960年:学習指導要領改訂で日の丸・君が代の取り扱いが「望ましい」とされた。

1989年:「するものとする」という義務的表現に変更(実質的義務化)。

1999年:国旗国歌法制定を契機に強制力が急激に強まった。

2003年:東京都が「10.23通達」を発出し、懲戒処分を背景とした強制が開始された。

●10.23通達による強制の実態

卒業式・入学式・周年行事での国歌斉唱時に起立斉唱・ピアノ伴奏を職務命令として強制した。副校長が座席表をもとに不起立者を監視し、「命令です。起立してください」と指示を三回繰り返す。

都教委から派遣された職員が副校長の監視行為を更に監視する二重監視体制。さらにピアノ伴奏拒否に備えてCDラジカセをあらかじめ用意。2003年の通達直後に243名が懲戒処分を受け、2003年から現在までの累計処分件数は485件に上る。

●教育現場への長期的影響

累積加重処分により不服従教員が減少。

不服従歴のある教員を式場外業務に配置し担任から外す対応が常態化(報告者自身も10年以上担任を外されている)。

職員会議の補助機関化・挙手採決の全面禁止・企画調整会議による管理職主導の意思決定システムの構築により、教員の自律的判断が著しく損なわれた。

「上に決めてもらおう」という従順な風潮が教育現場全体に蔓延している。

●国旗損壊罪制定後の懸念

国旗国歌法の前例と同様に、法律の規定を超えた拡大解釈による更なる強制が予想される。国旗への「けしからん」という曖昧な感情論が様々な場面で適用される危険性がある。

戦前の不敬罪・非国民という概念の復活につながりかねない(最近の教室で生徒が「非国民」という言葉を使う場面を目撃)。

火災時に命がけで国旗を取りに戻るような戦前の悲劇が繰り返される恐れがある。

【コメント・討論】

大門正勝氏のコメント

国旗損壊罪は単独の問題ではなく、武器輸出解禁・皇室典範改正(男系男子へのこだわり)・辺野古問題と連動した複合的な動きとして捉える必要がある。

男系男子へのこだわりは、世界的な反グローバリズム・反リベラリズム・反ジェンダーの潮流と共鳴関係にある。

辺野古問題での教育基本法14条2項の拡大解釈は、国旗損壊罪制定後に教育現場・内心・表現・運動の現場で起こりうる拡大解釈の先駆けである。

川辺恵一氏のコメント(ドイツ史の立場から)

ドイツの黒赤金の国旗は市民革命・民主主義の歴史的文脈から生まれたものであり、各国の国旗の歴史的成り立ちと内包する意味を踏まえた議論が必要。

外国にも国旗損壊罪に相当する法律があるという主張に対し、どのような方向からの攻撃を想定した法律かという文脈の違いを考慮すべきである。

市民社会・民主的理念・法体系の議論なしに国家への忠誠のみを求める形で法律を強行することは非常に危険である。

報告者からの補足

加藤氏:韓国の極右勢力の動きと日米韓軍事連携の中で日章旗と太極旗が並ぶ場面が増えており、複雑な局面が生じている。

本庄氏:教員養成系大学において学生が国家・社会・個人を同一視する傾向が強まっており、国旗損壊罪制定により思想・表現の自由への萎縮が本格化することへの危機感がある。

閉会の挨拶における共通認識

日の丸は戦前の軍国主義・植民地支配のシンボルであり、現在も国旗・国歌の強制を通じて教育現場を締め付けるシンボルとして機能している。

国旗損壊罪の法制化は、内心の自由・表現の自由・国家の暴力への抵抗権を根本から否定するものである。

政府が進める富国強兵的政策(歴史的円安下での物価高放置・武器輸出解禁・国旗損壊罪など)に対し、歴史学・歴史教育・子どもと教科書の立場から反対の声を上げ続けることが確認された。
(要旨:文責編集部)