さようなら! 福沢諭吉。1万円札の顔を変えよう! 

『さようなら! 福沢諭吉』ブックレットのある風景

『さようなら! 福沢諭吉』ブックレットのある風景

通り過ぎるばかりで、なかなか留まってもくれない福沢諭吉さん、あなたはどうして庶民の財布では黴菌のように増殖せずに、現社会のあらゆるジャンルの価値観にはがん細胞のように増殖しているのだい?

天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、とはいうものの、「学問のススメ」をとくと読んだ人はあまりいないようだ。むかしむかし、学校で聞いたことのある「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」のお言葉は、福沢諭吉の言葉とばかり思ってきて、福沢諭吉さんってすご~い哲学者、稀有な思想家・研究者で、しかも義塾という、いまでは大企業大学と誰もが認めている、その種まきをした人らしい。

でも、だが、しかし、これまで私が信じてきた諭吉さんの「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、」の言葉は、どうやら私の勝手な思い違いだったようで、ホントは「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、と言えり」なのだそうだ。つまり、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、」は福沢諭吉の言葉ではなく、どこかの誰かの言葉の引用だから「言えり」と学問のススメ」には書いているらしい。

70年も思い違いをして来てしまったなあ。中学&大学と何度か慶応には(親に)受験料は払ってもらったもののの、不合格だったから、創始者・福沢センセイの真意を知らずに来てしまったのか、そう思い込んできたのかと思うと、どっこい、合格した人たちにも、福沢の言葉と錯覚している人たちは多いらしい。

日本にあまくね広く浸透し庶民の懐深くまで増殖してきた福沢イズムは、しかしこの日、この3人の講義を聴いて、見事に解体崩壊し、眼からウロコの思いがした。その講義というのは12月4日、東京・明大で行われた『日本の「近代」と「戦後民主主義」-戦後つくられた「福沢諭吉神話」-』というもの。

「福沢諭吉神話」とはなにか
「なぜ、いま福沢諭吉なのか」「福沢諭吉が我々を大日本帝国に引き戻す」
「福沢諭吉の帝国主義イデオロギーと自民党改憲案」

すごく恐ろしい漢字が並んでいるけど、聞いてみたら、へ~ そうなの?、そうだったんだ、と連れ合いとうなずきあいながら聞き入ってしまいました。はい。

以下の写真は明治大学のホールに登壇されて拍手を受けているお三方です。
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市民運動の情報サイトのひとつにCMLというサイトを覗いてみると、Mさんが次のようにお知らせしてくれていました。

 長年、1万円札の顔になっている福沢諭吉…たくさん欲しい(笑)…ですが、実は「元祖ヘイトスピーカー」ともいうべき、アジア蔑視・民衆蔑視、女性蔑視の鼻持ちならぬ人物だったことを、下記の3者が完膚なきまでに証明しました。
そこで、この三者は、1万円札の顔を変えよう! 「さようなら! 福沢諭吉」という運動を始めました。

なのだそうです。1万円札の顔を変える運動ばかりではなく、1万円札は庶民には深く長くたくさん滞在してもらって増殖してくれる運動こそ、庶民の願ではあります。

さて、本論。この日の講演テーマは以下の通りです。
『日本の「近代」と「戦後民主主義」-戦後つくられた「福沢諭吉神話」-』
<講演者とテーマ>
安川寿之輔(名古屋大学名誉教授)「福沢諭吉神話」とはなにか
雁屋哲(漫画「美味しんぼ」原作者)「なぜ、いま福沢諭吉なのか」「福沢諭吉が我々
を大日本帝国に引き戻す」
杉田聡(帯広畜産大学教授)「福沢諭吉の帝国主義イデオロギーと自民党改憲案」

というものです。 12月4日(日)の午後、明治大学 「アカデミーホール」で行われました。主催は日本の「近代」と「戦後民主主義」を問い直す実行委員会。

『まさかの福沢諭吉』表紙

『まさかの福沢諭吉』表紙


                      
<戦後つくられた「福沢諭吉神話」って? 福沢は人間平等論者のウソ>

 「天は・・・人の下に人を造らず」の平等論者と誤解されている福沢諭吉は、日本の民衆一般を「馬鹿と片輪(かたわ)」と蔑視(べっし)しただけでなく、「百姓町人の輩(やから)は・・・獣類にすれば豚の如きもの」と主張した。 その福沢は、アジアへの武力行使と侵略を合理化するために、アジアの未開と野蛮を強調。「ヘイトスピーチの元祖」福沢は、朝鮮が「小野蛮国にして・・我属国と為(な)るもこれを悦ぶに足らず」「朝鮮・・・人民は正しく牛馬豚犬」「チャンチャン・・・皆殺しにするは造作(ぞうさ)もなきこと」「支那
兵・・・と戦う・・・じつは豚狩のつもりにて」「無智蒙昧(むちもうまい)の蛮民(ばんみん)」の台湾人は、「殲滅(せんめつ)の外に手段なし」などと主張した。また、「天は人の上に人をつくらず」の主張者と誤解されている福沢は、明治日本には「愚民を篭絡(ろうらく)する」詐術(さじゅつ)の天皇制が必要と主張し、日本の兵士に天皇のための戦死を求め、兵士が「以て戦場に斃(たお)るるの幸福なるを感じせしめ」るための、靖国神社の軍国主義的利用も提言した。

平等では、社会はうまく治まらないと主張 「男女の間を同権にする」ことや、貧民が高等教育を学ぶことに積極的に反対した福沢は、そもそも人間を平等にしたら社会がうまく治まらないという哲学まで主張した確信犯的差別主義者でした。

丸山真男が誤読した!「一身独立して一国独立する」 「一身独立して一国独立する」は、丸山によって絶賛されたが、福沢自身は、この定式で「国のためには財を失ふのみならず、一命を抛(なげうち)て惜(おし)むに足ら」ない国家主義的な「報国の大義」を主張していた。だからこそ、安倍首相は、〈「強い日本」を創る〉施政方針演説の冒頭に、この定式を引用した。

同時代人たちからは批判されていた 「富国強兵」に反対し「強兵富国」のアジア侵略路線を先導した福沢は、明治の同時代人からは、「我日本帝国ヲシテ強盗国ニ変ゼシメント謀ル」道のりは、「不可救ノ災禍ヲ将来ニ遺サン事必セリ」ときびしく批判されていた。

格差社会の先取りも 「今の社会の組織にては、・・・貧はますます貧に沈み・・・貧乏人に開運の日は無かるべし。・・・富豪の大なるものをして益々大ならしめ」よ、と主張した福沢は、今日の「格差社会」への道を先取りした経済人だ。

植民地獲得は「世界人道のため」? 「韓国併呑(へいどん)」の可能性を予告し、「満蒙(まんもう)は我が国の生命線」発言の先駆者であった福沢は、中国の半植民地化が進む時代に、帝国主義諸国による植民地獲得は「世界人道の為め」と主張して、日本の膨張主義への道を励ました。

私たち三人は、司馬遼太郎=丸山真男流の分断史観を克服 日本の近代史を「明るい明治」と「暗い昭和」に分断する司馬遼太郎=丸山真男流の史観ではなく、私たち三人は日本の近代化の道のり総体の「お師匠様」福沢諭吉のもとで、「明るくない明治」が「暗い昭和」につながった、という道のりを考えています。

以下お三方の著書など紹介します。(宿六)
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〈主な著書〉
 安川寿之輔『福沢諭吉のアジア認識 日本近代史像をとらえ返す』/『福沢諭吉
      と丸山眞男 「丸山諭吉」神話を解体する』/
      『福沢諭吉の教育論と女性論 「誤読」による〈福沢神話〉の虚妄を
      砕く』(いずれも高文研)
 雁屋 哲 『美味しんぼ』(作画:花咲アキラ・小学館)/『マンガ 日本人と
      天皇』(いそっぷ社)/『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』(遊幻
      舎)/『まさかの福沢諭吉』上下(作画:シュガー佐藤・遊幻舎)
 杉田 聡 『福沢諭吉 朝鮮・中国・台湾論集―「国権拡張」「脱亜」の果て』
     (明石書店)/『天は人の下に人を造る「福沢諭吉神話」を超えて』
     (インパクト出版会)/『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)

 *2016年に出版された3人の共編著 『さようなら!福沢諭吉―日本の「近代」と
 「戦後民主主義」の問い直し』(花伝社)