韓国への輸出規制―排外主義に傾く安倍政権

【報ステ】韓国への輸出規制「世界的な産業に影響」

【報ステ】韓国への輸出規制「世界的な産業に影響」(テレ朝news より)

日本政府は7月1日、韓国への輸出規制を強化すると発表した。今回、規制対象となる化学製品3品目は、韓国の基幹産業である半導体やスマートフォンのディスプレー製造に欠かせないものである。菅官房長官は「安全保障が目的であり、対抗措置ではない」としているが、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは「安倍総理は、相手の中核ビジネスに経済制裁という攻撃を加えるトランプ大統領の戦略を見習った」と報じている。日本が今回の措置に至ったのは、「元徴用工問題」に起因すると見られている。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000158569.html

安倍首相は会見で「WTOに違反するものではない、相手の国が約束を守らないというのであれば、今までの優遇処置はとれない」と語っている。さらに歴史問題を絡めたものではなく、「元徴用工問題」で韓国が国際法上の決まりを守るのか、ということだ、と語ったという。

これではいかに抗弁しようとも、政治的理由による輸出規制であり、経済制裁という圧力である。また、この時期にこの対応に出たのは、「国民の間に嫌韓感情の広がりが見える中、21日投開票の参院選をにらみ、厳しい態度で臨んだ方が支持を得やすいとの読み」(「時事ドットコムニュース」2019年07月06日)があるとの見方もある。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019070500835&g=pol

安倍支持者をつなぎとめ溜飲を下げるためにも、強面の対応なのだろうが、それは問題を解決するものではない。韓国に対して、むしろマイナスであることを気づかないのだろう。俗なイソップ寓話の「北風と太陽」で言えば、構えた旅人に対して北風をいくら吹かせても上着を脱がすことはできない、ということだ。太陽とはおおげさかもしれないが、相手を尊重して対応すべきであり、相互に理解を深めなければ解決できない問題だ。

そもそも今回は個人の請求である。1965年の日韓請求権協定による戦後賠償問題は解決している、という日本政府の立場は国による請求の権利であって、それは、外務省の柳井局長も1991年の国会答弁で、個人の請求権は消滅していないと答弁している。それは現在も日本政府の公式見解でもある。

「日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/121/1380/12108271380003a.html

韓国の司法(大法院)は、従軍慰安婦や徴用工のような反人道的な不法行為については日韓請求権協定と次元が違うと考えているのではないだろう。いずれにせよ他国の司法判断については、それを尊重すべきであり、三権分立を是としている日本政府の立場であれば、尚の事ながら、韓国政府に対して圧力を加えるべきではない。

さらに建前上、日本はさきのG20首脳会義で自由貿易の原則を唱っていながら、その直後に韓国への輸出規制をするのは矛盾も甚だしい。自由貿易についての評価はともかく、結局のところ、トランプの米国に見るような帝国主義の正体であり、そこを貫くものは自己利益優先でしかなく、他者については不利益を被るものなのだ。市場主義と自由貿易というグローバリゼーションそのものの実態と限界が見えた気がする。

日本政府が韓国政府を非難し続け、この上で経済制裁をすれば、官と民のまるごとの韓国社会を敵に回すもので、まさに言葉の正確な意味での「反日」感情へ火に油を注ぐようなものだろう。

日本の政治家の物言いには紺国には譲歩してはならない、という意向が見える。近年の日本社会の嫌韓的世論の影響もあるだろうが、これまで日本の戦争責任や植民地責任の問題がスルーされてきた結果とも言える。しかし、そこに留まることはできない。今こそ冷静に歴史を見つめ直し、対話を重ねて戦後責任の道筋をつけていくときではないのか。
(本田一美)

*なお、韓国への輸出制限を法令化する「輸出貿易管理令の一部を改正する政令案」のパブリックコメント募集が7月24日まで行われています。反対意見を提出しよう。
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595119079&Mode=0

■参考

韓国への輸出規制「WTO違反」指摘に日本政府ピリピリ(朝日新聞Web 2019年7月5日)

経産省幹部は「今回の規制は安全のためだ」と、中国の違反事例との違いを説く。ただ、政府は韓国人元徴用工への損害賠償問題を挙げて「信頼関係が著しく損なわれた」ことが規制強化の最後の引き金になったとも説明している


https://digital.asahi.com/articles/ASM744K86M74ULFA012.html?rm=255