日本人だったコリアンたちの満州…『満州戦線』
流山児★事務所の「満州戦線」チラシ(HPより)http://music.geocities.jp/ryuzanji3/r-man.htmlcities
流山児★事務所の「満州戦線」という舞台が7月11日から16日まで東京・下北沢のザ・スズナリで上演された。韓国の現代演劇の作家であるパク・グニョンの作品第2弾であり、「満州戦線」は、満州で五族協和を信じ、日本人として生きた朝鮮の人々の歴史を描いた作品だ。
1943年3月、満州の首都・新京(現・長春)には、朝鮮から満州に渡り、満州国陸軍軍官学校(実質的に、大日本帝国陸軍士官学校)を卒業したアスカの卒業を祝うため、友人たちが集っていた。彼らは日本名を持ち、その名前で呼び合う。そしてそれぞれが満州で働きながら暮らしていた。祖国独立のために戦う運動家たちを匪賊と呼んで憎悪し、アスカの妹が持ってきた朝鮮の味噌壺は虫が湧いて非衛生的だと扱き下ろし、日本の有田焼を尊ぶ。有田焼は豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に連れられてきた朝鮮陶工が作ったという歴史認識もないままに…。そして市役所で働くヨシエは日本人上司との不倫がばれて、リンチにあっても、日本人と結婚し、日本人の子を生み育てることを願うのであった。(宣伝チラシから)
芝居の最初から心中ひりひり、居心地の悪さを感じていた。かつて日本が侵略して傀儡国家として満州国をつくり、そこに希望を抱いて朝鮮系日本人たちが自分たちの未来の夢を語り合い、それが現実によって打ち砕かれる。その日本人になろうするコリアンたちの悲喜劇を、韓国人によって書かれた台本をもとに日本人が演じて、日本という場所で日本人が観る。この構図がなんとも、居場所のないような、気まずさと居た堪れない気持ちを抱かせた。
詩人が自分を育ててくれた複数のアボジ・オモニたちの若かりし頃、(そこは満州国・新京)を思い出し、語りだす。舞台では軍服を着た男性は素直に日本の帝国陸軍兵士になることに喜んでいる。また周りの友人たちも自分たち(コリアン)の仲間から将校がでて出世することを夢みている。
有り体に言えば、戦時中の大日本帝国に普通にありそうな物語でもある。しかし、そこに登場するのは帝国臣民に憧れ、それと同化を求めるコリアンたちだ。また、それを優先するため民族排外・蔑視意識をむき出しにする。ここのあたりは、いわゆる「親日派」と呼ばれている、あるいはそれにつながる人々なのであろう。
その仲間たちの夢は無残にも日本人との恋愛が破れて、二等国民である朝鮮人の過酷な現実に引き戻される、そのことは逆に仲間たちの結束とアイデンティティ(?)を覚醒し、新たな物語がつくられるであろうことを、語り部である詩人によって予兆させるものだった。
満州国は「五族協和」(日本が満州国を建国した時の理念。五族は日本人・漢人・朝鮮人・満洲人・蒙古人を指す)を謳ってはいたが、実態は日本の関東軍が支配し、民族についても日本人の優越性が明らかだった。それでも満州に渡った日本人にも「五族協和」という理念を信じて理想郷をつくろうと邁進した人々がいた。
終演後は劇作家のパク・グニョンさんと演出家のシライケイタさんを交えてアフタートークが開かれた。韓国で「満州戦線」が上演されたときに、「よくぞ取り上げてくれた」という賛辞と、「今さら話題にすべきでない」という声があったという。パク・グニョンさんは韓国ではあまり知られていない歴史であり、これまで語られて来なかった、という。韓国軍には旧満州国出身の軍人も多く、あの時代の朝鮮人の生きたかたを見つめて、韓国の今を考えてみたいという思いがあり、あまり植民地支配の問題は頭になかったという。
この物語は完全なフィクションだが、モデルは満州国陸軍軍官学校出身で満州軍副官で後に大統領となった朴正煕(パク・チョンヒ)ではないかと噂された、という。その娘がこの間まで韓国の大統領だった朴 槿恵(パク・クネ)で、日本では満州国の財政部次長という官僚を努めて、戦後首相となった岸信介がおり、その孫が安倍晋三現首相であり、日本人としても他人事としては見られない。
他にも流山児祥さんから、韓国の演劇人たちが南北の演劇交流をしようという企画がすすんでいる。このような話はまったく伝わらない、この日本の状況を嘆いた。(本田一美)
■参考
満州国軍 ~“五族協和”の旗の下に~
https://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/bangumi/movie.cgi?das_id=D0001210059_00000
多くの若者が絶望する韓国のリアル。パク・グニョンが描く現時代(シンラ)
https://www.cinra.net/interview/201610-kunhyungpark