参院選「現状肯定」の空気が占める…ファシズムと対抗する風も

■第25回参議院議員選挙の考察

7月の第25回参議院議員選挙(1919年7月21日投開票)について注意しなければならないのは、ファシズム環境の進展です。

ファシズム(イタリア語のfascio<ファッショ・棒の束>から、個人の尊重を否定し、国を統轄する国家への偏重を求める全体主義の意味に)は、イタリアのムッソリーニ・国家ファシスト党政権の成立(1922年10月31日)、ドイツのヒトラー・ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)政権の成立(1933年1月30日)、スペインのフランコ・軍事独裁政権の成立(1939年4月1日)、日本の近衛文麿・軍国主義天皇制政権の成立(1940年7月22日)などによって展開された全体主義的反共産主義・反民主主義専制政治体系のことです。

ファシズムは、資本主義の矛盾を独裁的暴政で克服しようとする政治体系です。即ち、国家が、民衆による「改革」や「革命」の道を遮断した上で、デマゴギー(Demagogie 事実に反する謀略的・扇動的宣伝)を用いて、民衆の不満や欲望を利用して、民衆に対して「改革」や「革命」の実行を言いながら、民衆に対して「反動的反民主的改革」や「反革命」(民衆暴虐統治)を実行する政治体制であり、また、「平和」を掲げながら「侵略」を実行する政治体制であり、そして、それを前掲にして、(A)対外的には、他国と他国民族と他国人民に対する侵略主義と排外主義(他国民族と他国人民を支配するために民族間の憎悪や反目を煽る思想と立場)と抑圧主義を実行する、(B)対内的には、侵略主義と排外主義と抑圧主義を実行するために障害となる国民主権とそれに基づく民主主義や基本的人権や地方自治や司法権の独立や議会政治(議会があっても)や政党や団体などを、反共産主義と反民主主義とナショナリズム(国家主義・国粋主義)を以て、|a>初めは、ソフトに(合法性を装って)・部分的に、|b>最後は、暴力で・全面的に抹殺して、国民に一つの思想を押し付ける思想的独裁と暴力を押し付ける暴力的独裁を実行する、全体主義的反共産主義・反民主主義専制政治体系です。

さて、ファシズム環境の進展とは、具体的には、2019年7月15日、安倍晋三内閣総理大臣が北海道・札幌市中央区で演説している時、「安倍辞めろ、帰れ」と野次を飛ばした市民を北海道警察の警官が取り押さえ、演説現場から排除しました。男女一名づつ、声をかけることなく取り押さえました(2019年7月17日付「朝日新聞(朝刊))。また、2019年7月18日、滋賀県大津市のJR大津京駅前で安倍内閣総理大臣が演説をしている時、「安倍辞めろ」と野次を飛ばした男性を、警官が会場後方で囲んで動けなくしました(2019年7月19日付「朝日新聞(朝刊)」)。これらの行為は、内閣総理大臣=国家に逆う異端は認めないという、一つの思想を国民に押し付ける思想的独裁の形態です。

道警ヤジ排除集会を伝える記事(朝日新聞 2019.10.23)https://www.asahi.com/articles/ASMBQ5KBRMBQIIPE00W.html

道警ヤジ排除集会を伝えるニュース放送

 
道警ヤジ排除集会を伝えるニュース放送。集会では道警に対し速やかに事実関係を明らかにするよう求める決議を採択し、その後参加者は道警本部前に集まり抗議した。(HTB北海道テレビ 2019.10.22)

他方で、日本維新の会の台頭がありました(改選7議席から10議席へ)。この政党は、選挙で勝ったら何をしてもいいという21世紀型ファシズムを実行する反民主主義的集団です。日の丸・君が代の強制を徹底したり、労働組合員の思想調査を実行したりして、「思想・良心の自由」(憲法第一九条)を弾圧する思想的独裁を行っています。

更に、安倍内閣と自由民主党は、低投票率化を操作して、議会政治を崩壊させようとしております(選挙区の投票率は、2016年の選挙では、54.70%でしたが、今回の選挙では、48.80%になりました)。

2014年11月20日に、自由民主党の萩生田光一・筆頭副幹事長等が、NHKと在京テレビ局に、「選挙報道の公平中立を求める要望書」を送りました。2016年2月8日には、高市早苗総務大臣が、衆議院予算委員会で、反政府報道を行う放送局に対しては電波停止措置を行うと恫喝しました。

こうした行為や毎月行われている新聞社・放送局の幹部と安倍内閣総理大臣との会食の影響により、テレビ局は、選挙報道を減少させてきております。例えば、テレビ番組を調査・分析するエム・データ社(東京都港区)によると、地上波のNHK(総合・Eテレ)と在京民放五社の選挙に関する放送時間は、参議院議員選挙の公示日(7月4日)から7月15日までの12日間で、計23時間54分で、前回(2016年、30時間37分)に比べて、6時間43分減っています(2013年の時は、38時間32分)。特に、「ニュース/報道番組」の減少が顕著で、前回から約3割、民放だけなら、約四割減っています(2019年7月19日付「朝日新聞(朝刊)」)。

テレビ報道は前回に比べ6時間43分減っている

テレビ報道は前回に比べ6時間43分減っている(朝日新聞 2019.07.19)https://www.asahi.com/articles/ASM7K6X5XM7KUCVL02H.html

選挙報道が少なくなれば、選挙に関心を持たない人が増えて、低投票率が生まれる切っ掛けとなります。

低投票率が続けば、与党優勢の国会構成が固定化し、内閣の意思のみが国会で承認されて、討論によって政策を決める議会政治は崩壊します。内閣による独裁政治が出現します。選挙はいらないという暴論も、台頭します。議会政治がファシズムに駆逐されます。

ところで、話が後先になりましたが、第25回参議院議員選挙の結果と課題について述べますと、最大の特色は、自由民主党の準「完敗」です。

自由民主党は、参議院の議席の過半数(123議席)を単独で確保することができませんでした。改選議席66から9議席を減らして57議席の確保となり、これに非改選の56議席を加えて113議席に留まりました。このことは、自由民主党にとって大衝撃であって、参議院では単独で何も決められなくなりました。また公明党にも、日本維新の会にも、威嚇できなくなりました。

自由民主党の絶対得票率(全有権者・1億588万6063人に占める得票率)は、18.9%で、比例得票数は、2016年(2011万票)と比べて、240万票も減らしました(1771万票)。安倍(内閣・自由民主党)政治への「飽き」の表出であると考えられます。この結果の示すものは、選挙で訴えた自由民主党の政策は、すべて否定されたということです。

しかしながら、自由民主党と公明党で、参議院の過半数の議席を確保し(自由民主党・113議席+公明党・28議席、合計141議席)、且つ、改憲の発議に必要な参議院の総議員の三分のニ以上の議席(245議席×2/3以上、164議席以上)は確保できませんでした(自由民主党113議席+公明党28議席+日本維新の会16議席+無所属3議席、合計160議席)が、改憲の息の根(可能性)を残すことができました(準「完敗」)。不足の四議席を他の党の議員や無所属議員で確保できる可能性が存在しているからです。

市民と野党の共闘――「市民・野党」共闘の準「敗北」も、もう一つの特色です。

「市民・野党」共闘は、自由民主党と公明党の与党連合の参議院の過半数の議席獲得を阻止できませんでしたが、改憲勢力による参議院の総議員の三分の二以上の議席獲得を阻止できました。しかし、改憲勢力の改憲の息の根は止められませんでした(準「敗北」)。改憲の発議に不足の四議席は、改憲勢力が補充できる数であるからです。

「市民・野党」共闘が、与党連合の参議院の過半数の議員獲得を阻止できなかったのは、また、改憲の息の根を止められなかったのは、自由民主党と公明党が、一人区・複数区・比例区で綿密は選挙協力を行っているのに、「市民・野党」共闘の野党同士は、複数区・比例区で、自党の勝利のための骨肉の争いをしたからです。

一人区の野党同士の共闘については、日本共産党の求めた、その勝利のために必要な相互推薦・支援は、不十分にしか行われませんでた。日本共産党は、真剣な努力であったが、他の野党はそれなりの努力でした(例えば、福井選挙区のように)。

一人区で、「市民・野党」共闘は、与党(自由民主党・公明党)連合と五分の闘いができず、2016年の時の11議席から、今回の10議席と、1議席減らしております。「市民・野党」共闘を主導した日本共産党も改選議席を一つ減らしております。「市民・野党」共闘が始まった2016年の参議院議員選挙の時より、「市民・野党」共闘の重要性の理解が深まって、「市民・野党」共闘の勝利のための選挙方策も豊かにできたのに、この結果は、重大です

一人区で勝利するには、一人区のみの「市民・野党」共闘では不十分で、複数区や比例区での「市民・野党」共闘が必要であることが明白となりました。複数区や比例区で野党同士が骨肉の争いをしたら、一人区の共闘は〝何だ〟となって、有権者の「市民・野党」共闘への深い信頼を得ることはできません。

それから、「市民・野党」共闘から生まれた無所属議員は、出身政党に戻ったり、どこかの党に入ったりしてはいけません。有権者を欺く行為です。独立の無所属集団として、野党と共闘すべきです(国民民主党は、2019年7月24日の総務会で、野党統一候補として当選した岩手選挙区の横沢高穂氏(無所属)の入党を承認しました)。

「市民・野党」共闘による政権の獲得は、そして、改憲の息の根止めは、一人区・複数区・比例区での「市民・野党」共闘が絶対に必要です。「現状肯定」の空気――これが、今回の選挙の勝利者です。だから、低投票率で(選挙区、48.80%)、自由民主党と公明党で、過半数の議席の獲得となりました。

今回の選挙での鮮烈な出来事は、れいわ新選組から筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の舩後(ふなご)靖彦氏と重度障害者の木村英子氏が、初当選したことです。ファシズムは戦争に動員できない心身障がい者(要支援者)を抹殺しようとしますから、このことは、反ファシズムの風の起こりと見ることができます。

れいわ新選組は、名称は、古くさく民主主義の匂いがしませんが、その代表の山本太郎氏が反緊縮・財政出動、消費税ゼロ、沖縄基地中止、原発禁止、最低賃金1500円など、「市民・野党」共闘の掲げた13項目の「共通政策」と相通ずる左派の政策をわかりやすく訴えて伸張しました。そのような政策が支持されたわけですので、社会保障・福祉など一人一人の生活を守る具体的な政策を国民が望んでいることが明らかとなりました。

女性が28名当選した(立候補104名)ことも、注目されます。国会における男女平等の風の起こりです。

更に、性的少数者(LGBT)の石川大我氏(男性同性愛者・ゲイ)が、立憲民主党から、そのことを公表して、初当選(比例代表)したことも、貴重です。性的少数者の政治参加の道が拓かれました。衆議院では尾辻かな子氏が同性愛者を公表しております。性の多様性の風の起こりです。

以上が、第25回参議院議員選挙の結果の簡潔な分析ですが、自由民主党が、参議院の過半数の議席を単独で確保できなかったこと、改憲勢力が改憲を発議するのに必要な参議院の総議員の3分の2以上の議席を確保できなかったことは、改憲活動をするなというのが国民の審判である、と言うことができます。

ところが、安倍内閣総理大臣は、それでも、改憲に走ると公言しました。

2019年7月21日の「テレビ番組」で、安倍内閣総理大臣は「改選議席の過半数を得ることができた。結果として、(憲法改正の)議論をすべきではないかという国民の審判だったのだろう。私の使命として、残された任期の中で当然挑んでいきたいと考えている。まずは憲法審査会で議論を進めていただきたい。国民民主党の中には、少なくとも議論はしていくとの考え方をもっている方がいるだろうと思う。全員が一致しない限り議論すらしないのでは、国会議員としての職責が果たせいないのではないか」と述べております(2019年7月22日付「朝日新聞(朝刊)」)。

だが、国民は、安倍政権(安倍内閣・安倍自由民主党)による改憲を求めておりません。

例えば、朝日新聞が2019年7月22日・23日に実施した「世論調査」において、「安倍政権のもとで憲法の改正をすることに賛成ですか」という質問に対して、賛成、31%、反対46%の回答が行われています(2019年7月24日付「朝日新聞(朝刊)」)。また、共同通信が2019年7月22日・23日に実施した「世論調査」において、「あなたは、安倍首相のもとでの憲法改正に賛成ですか、反対ですか」という質問に対して、賛成、32・2%、反対56・0%、分からない・無回答、11・8%の回答が行われています(2019年7月24日付「東京新聞(朝刊)」)。

「安倍改憲」を阻止するための課題は、重大事ですので、次回に取り上げたいと考えております。