ヘイトスピーチの現在。排外街宣を許すな!

桜本へのヘイトデモに反対する集会(youtubeより)

私が排外主義の具体的直接的行動としてのヘイトスピーチとそのデモを認識したのは2007年のフィリピン人への不法滞在に関して、その子どもに対して居住地域に対するデモだったように思う。そのデモを主催したのは「在特会」という団体で、「在特会」(在日特権を許さない市民の会)が結成されたのも2007年で、同時に名前が知られた時だったと記憶している。その後は主として在日コリアンに対して非難・街宣の活動を始めて、断続的に反韓・反中のデモや集会を開催するようになった。これらの活動は在特会以外の団体も主催している。

2011年には小平市の朝鮮大学への街宣、2013年は大阪・鶴橋、東京・新大久保でも街宣・デモがおこなわれ、特に新大久保のデモの頻度は増し、対抗するカウンター行動も発生していった。ヘイトスピーチという言葉も世間に膾炙ていったのもこの頃で、『ヘイト・スピーチとは何か』(師岡康子 岩波新書 2013年) も出版された。

そして2014年にピークを迎えたヘイトデモは、差別排外主義者への裁判や街宣デモでの規制や対立などで社会問題化し(『在日コリアンの人権白書』明石書店 2020年)、2016年5月24日、衆院本会議において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)が可決・成立した。

「ヘイトスピーチ解消法」については、罰則のない理念法のため、その実効性には限界があると指摘された。ここでは別な留意すべきポイントを示したい。

・保護対象者を、本邦外出身者のなかでも「適法に居住するもの」に限定したことである。これでは「不法」滞在であればオーケーとなりかねない。
・「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消」とあるがヘイトの対象自体が「個人では変えることが困難な人種、民族、宗教、国籍、家系、性などの属性に対して」の差別である以上はあまりに狭く対象を設定している。
・ヘイトスピーチが「違法」であると明確にはしておらず「禁止規定」もないこと。(『ヘイトスピーチ解消法と今後の課題』郭辰雄さん 法学館憲法研究所 2016.7.18) 
http://www.jicl.jp/old/hitokoto/backnumber/20160718.html

法律成立後は各地の自治体が条例やガイドラインを作り、排外主義を訴える大規模なデモは減少し、過激な発言も減り一定の成果があったといえるだろう。

しかし、公道でのデモは減っても、ネット空間では平気で差別・排外・憎悪感情が表明され、匿名のヘイトスピーチは続き、標的にされる在日コリアンの被害も続いている。以下その問題をあつかった。報道番組を紹介してみたい。

TBSのニュースの報道特集だが、在日コリアンが多く住んでいる川崎・桜本でふれあい館というコミュニティ施設の館長でもある崔江以子(チェ・カンイジャ)さんを取材したもので、陰湿なヘイト攻撃に悩まされている。また、川崎駅前でのヘイトスピーチの街宣の実態も報道している。また街宣活動を保護するような警察のあり方も写している。街宣を保護するようなあり方も矛盾していて、政府が容認しているようにも見える。当然ながらそれに抗議する市民たちもいる。

市民たちはヘイトの街宣のおこなわれやすい駅前などでの情報を交換するヘイトパトロールをおこなっている。さらにその駅前で読書会を開いて街宣を開きにくくするとりくみも続いている。

川崎駅前で読書会を主催する人は「昔にみたいに分かりやすいヘイトスピーチはもうないんですね。でもヘイトはあるわけです」「それに対抗するものとして文化で戦いたいな、と」「誰もができる形として読書というものがある」と考えたという。

この言葉は鋭く共感できる。ヘイトに抗議するのも形としては抗議することになる。単純に反対するのではなく、文化で対抗するとは、精神や知を豊かにするものだからだ。もちろん現実には行動を伴うものとなるだろうが、構えだけは心豊かにするものを携えておきたい。
(本田一美)

川崎駅前で市民たちのヘイト街宣をチェックする読書会(ヘイトデモに反対する集会(youtubeより)

川崎駅前で市民たちのヘイト街宣をチェックする読書会(ヘイトデモに反対する集会(youtubeより)


解消法から5年 「ヘイトスピーチ」はいま【報道特集】

7月の日曜日、川崎駅前は騒然としていた。集まっていたのは「日本を取り戻す」という団体。日本に移民は要らないというプラカードを掲げていた。これに抗議する人たちが「帰れ」と大声を挙げる。団体のメンバーは「我々はヘイトスピーチなんかやっていない」という。

特定の人種や国籍の人たちを言葉で攻撃するヘイトスピーチ、これまでは繰り返し行われた。5年ほど前、在日コリアンが多い川崎では「死ね」「叩き出せ」と激しいヘイトスピーチで排斥を主張するデモが相次いだ。

対策として国が5年前に「ヘイトスピーチ解消法」(2016年)をつくり、川崎市も2020年に刑事罰付きの禁止条例を施行した。だが、団体はあからさまなヘイトスピーチを避けながら街宣を続けている。街宣は月に何度も行われている。

多くの在日コリアンが暮らす川崎市桜本。法律や条例ができて過激で直接的なヘイトスピーチが減ったあとも不安を抱き続ける人が多い。崔江以子(チェ・カンイジャ)さんもその一人だ。

崔さん「知ってるお店は安心してこれます」

だが、川崎駅には気軽に行けないという。「街宣の告知があると行かれない」、崔さんが街宣を恐れるのには訳がある。崔さんは「ふれあい館」という在日外国人と地元住民が交流する施設に勤務している。2016年1月、桜本はヘイトデモの標的となった。崔さんは地元を守りたい一心で立ち上がったひとりだ。

崔さんは差別をおそれルーツを隠した過去もあった。対策に奔走する原動力になったのは子どもちとの約束だった。何で来るんだ、「ルールがないなら、大人がルールをつくればいいじゃないか」と、そこで私たちの時代に対応してもらえるルールをつくるため頑張ると。

2016年5月「ヘイトスピーチ解消法」が成立。ヘイトスピーチが差別的で許されない、と初めて明文化された。行政や司法がヘイトデモを制限する根拠となる、その数はピークだった2014年の10/1以下になった(2014年120回/2020年9回)。川崎では刑事罰付きの「ヘイトスピーチ禁止条例」ができた。排斥・侮辱・危害などの発言が3度認定されると最高50万円の罰金が科される内容だ。

だが、いまヘイトは陰湿な個人攻撃に姿を変えている。ふれあい館の館長になった崔さんのもとに、ある封筒が届いたのは3月のこと。コロナ入だというお菓子を添えて「死ね」という脅迫状だった。脅迫状は在日コリアンへの差別的言葉を重ねていた。最後に死ねという言葉が14回も連ねていた。

去年の正月にも「抹殺しよう」「殺していこう」という年賀状が届いた。ふれあい館への爆破予告もあり、ネット上での個人攻撃も止まない。不安から郵便物も開けられず、電話に出るのも躊躇する。そして防刃ベストを身につけないと外出できない恐怖の毎日だという。

21年4月、弁護士らでつくる「外国人人権法連絡会」は悪質なヘイトへの対策強化を法務省に訴えた。ヘイトに立ち向かったがゆえの攻撃は子どもへも向かっていた。

崔さんの子どもは、反ヘイトを訴えていた。そしてネットでは激しい中傷に晒されていた。

大学生になったいま、当時を振り返る「怖いというのが、匿名だし…」「家族旅行とかも何回も延期になりました」。
「母から「私が在日朝鮮人でごめん」と言われて、何も言葉がでなかった」

ネットで中傷する相手に対して裁判を起こした。結果は勝訴した。しかし相手が一度も出廷しなかったため敢えて控訴した。そして自分の名前(中根寧生さん)を公表した。「僕が実名と顔を出して報道されることによって少しでもその矢が自分のほうにできれば、オモニへの被害も減るのじゃないかと」

東京高裁では侮辱と差別による人格権の侵害と賠償金を130万に引き上げた。
(朝日新聞デジタル 2021年5月12日)
https://www.asahi.com/articles/ASP5D658WP5DUTIL004.html

ふれあい館では毎週水曜に在日コリアンの高齢者が日本語を習いに集まる。ここでは30年以上前から戦中、センゴに文字を学ぶことすらできなかった在日コリアンを支援し続けた。

在日コリアンのヘイトスピーチに対する思いと1万3千筆以上の署名を川崎市に届けた。求めたのは啓発や監視など「ヘイトスピーチ禁止条例」に基づいた対策の強化だ。

脅迫ハガキを出した男は元同僚の在日男性の名を語り、ふれあい館やいくつか学校の爆破予告も送っていて、「在日差別が目的だった」と裁判で述べて、威力業務妨害で懲役1年の実刑判決となった。

事件を受けて桜本の町内会長は、関連する記事を町内に回し、勉強会も開き、ふれあい館に毎日立ち寄っているという。

またヘイトに対抗する人々が川崎駅前(よくレイシストが街宣をする場所で)で読書会を開いている。読書会を開くことによって街宣をしにくくするのだという。昨年暮れからほぼ毎週行われ50回を超えている。

崔親子を支えてきた師岡康子弁護士は法律のさらなる整備を訴える「ネット上のヘイトを含む差別は違法なんだとはっきりさせることが必要」「禁止規定と制裁規定を置くことが、まず第一歩だと思います」。

崔さんは「できたルールを最大限活かす努力ですね」「作っただけでは止められないし、被害から救済されませんから」「もう二度と市民を被害に遭わせないのだという運用を期待しています」と語る。

(文責:編集部)