許すなヘイトクライム!早急な対策を

放火にあったウトロ地区(2021年8月)NHKwebより

放火にあったウトロ地区(2021年8月)NHKwebより

昨年(2021年)7月に愛知の民団及び韓国学校、8月には 京都の在日コリアン集住地区であるウトロの民家を燃やした連続放火事件が起きた。2016年にはじめての反人種差別法である ヘイトスピーチ解消法が成立したが、その後もネット上でのヘイトスピーチやヘイトクライム(差別意識による犯罪)を示唆する差別書き込みは止まらない。デモこそないが川崎でのヘイト宣伝も続いている。2月24日(木)15時より「今こそ国によるヘイトクライム対策の実現を求める院内集会」が開かれた。主催は実行委員会。その呼びかけ文の一部を紹介しよう。

そもそもヘイトクライムについて国は人種差別撤廃条約にもとづき 重く処罰するなど対策をとる義務を負っており、政府は国連に対して 「刑事裁判手続において、動機の悪質性として適切に立証しており、 裁判所において量刑上考慮されている」と報告しています。しかし、 実際には2020年の在日コリアン虐殺を宣言した川崎市ふれあい館への 連続脅迫文書事件の判決でも考慮はされず、そのような裁判例は聞い たことがありません。 他方、アメリカでは日本人を含むアジア系住民に対するヘイトクライムが急増していますが、大統領がすぐに現地に訪れ、ヘイトクライムを非難し、議会はヘイトクライム対策新法を成立させました。

以上のように、この集会が差別と排外主義に鈍感(というよりも選民意識がある…)な日本の政府・社会へ向けて直ちに対処し行動するよう求めたものであることは明らかだ。

集会は司会の師岡康子弁護士が全体のプログラムを説明。ウトロ放火事件の報告とウトロ出身者の発言、集会参加の国会議員のあいさつ、川崎ふれあい館に対する脅迫の報告、最後に弁護団からのヘイトクライム対策への提言として資料の説明があった。

はじめに金秀煥さん (一般財団法人ウトロ民間基金財団理事)からウトロ地域の歴史的背景の説明があった。戦時中に京都のウトロ地区に飛行場を建設し、その労働者たちの飯場も併設されるが、終戦により建設は中断され、従事していた朝鮮人労働者は放置される。その後は土地が売却され最終的に西日本殖産が「建物住居土地明け渡し」訴訟提起(1989)され、居住権保障を求める運動も展開されていった。

ウトロ放火事件を報じる記事(NHK関西02月24日)NHKwebより

ウトロ放火事件を報じる記事(NHK関西02月24日)NHKwebより

宇治 ウトロ地区放火事件 背景に差別意識か “対策強化を”
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20220224/2000058164.html

途中で、京都府宇治市のウトロ地区の放火事件の動画上映があり映像として焼跡の焼け焦げたウトロの看板などが映し出された。

金さんは、ウトロは差別と分断の時代に貴重な場所として残しておきたいところだ、と語り、出火当時の話をはじめた。

「子どもたちは大丈夫なのか? と不安になり、また未だに都市ガスが整備されておらず、多くがプロパンガスなので引火するかもしれないという恐怖があった。警察は当初から漏電だろうという判断で、空き家から出火したとウヤムヤにしていた。11月に再調査して、放火したという証言がでてきた。犯人がウトロの前に名古屋の民団関連の建物などを放火したという。憎悪や偏見が見えてきて怖かった。住民たちと話し合うと、やっぱりな、という答えもあった。現実を受け入れるのは苦しい。SNSでは放火を肯定する意見や書き込みがあり、それらを見て震えた」

司会者が報告を引き取り、差別が犯罪であるということを社会で示さないといけないとして、行政の鈍さを批判した。行政が社会をすすめるため差別・ヘイトクライムを発生させないということを導かないといけない、と語った。ここで参加している共産党、立憲民主党の国会議員の紹介と発言があり、次にウトロ出身者が自分の出自とその想いを語ってくれた。

具良鈺さん(弁護士)の発言

「ウトロで生まれ生活してきました。皆で助け合いをしてきました。ウトロは兄弟を育ててくれたコミニュティです。「建物住居土地明け渡し」裁判がはじまったときには植民地支配の犠牲者なのに何故、と疑問がありました。朝鮮学校に通っていたときにも嫌がらせを受けて、またその母校が在特会から暴言・脅迫を受けたときも警察は見ているだけでした。私自身も出自を隠すようにして逃げたいという思いがあり。行政や司法への不信がありました。アメリカに留学してヘイトクライムへの反撃を知りました。ヘイトクライムを許さないという意識を共有することを知りました。ウトロ放火事件で大切な思い出の看板などが燃やされて、自分の一部や思い出が奪われた気持ちです」

司会から川崎ふれあい館に対する脅迫や施設への爆破予告の脅迫など、ゴキブリの死骸を送りつけたり、電話やネットの書き込みなどの嫌がらせが続いている。同館の館長は防刃チョッキを着きて過ごさざるを得ないという、状況報告があった。

その後は弁護団から当日の配布資料である「ヘイトクライム対策の提言」の説明があった。以下「第5章 」の緊急にとるべき12の対策を転記する(資料37~41頁)。

緊急にとるべき12のヘイトクライム対策(タイトルは編集部)

①ヘイトクライム根絶宣言
政府は、ヘイトクライムが差別的動機に基づく重大な犯罪であり、深刻な社会問題であ ること、そして、政府が総力をあげてヘイトクライムを根絶するための対策をとることを 宣言するべきである。同様に、国会も同主旨の宣言を行うべきである。このような宣言が、 国によるヘイトクライム対策の出発点となる。

②ヘイトクライム対策に関する担当部署を内閣府に設置すること
政府は、速やかに政府内にヘイトクライム対策担当部署を設置すべきである。その際、 人種差別撤廃条約が罰則を含む法的規制、救済、教育、啓発、交流など総合的な差別撤廃 政策を求めていることに留意する必要がある。人種差別撤廃委員会が 2018 年の総括所見 パラグラフ 14(b)で勧告しているように、ヘイトクライム対策の基本は「ヘイトクラ イムを含む人種差別の禁止に関する包括的な法律を採択すること」である。従って、男女 共同参画施策、アイヌ民族施策、障害者施策などと同様に、省庁間にまたがる総合的な施 策を担当する内閣府内に設置するのが適切である19。イギリスでは差別禁止政策全般につ いて内閣府が担当していることも参考となる。

③マイノリティ当事者、専門家などによる審議会の設置
政府は、人種差別撤廃問題、国際人権法、ヘイトクライム及びヘイトスピーチ問題、犯 罪被害者救済対策等の専門家並びにマイノリティ当事者などによる専門的な審議会を設 置し、ヘイトクライム対策に関する包括的な制度設計を行うべきである。この際、審議会 は、日本におけるこれまでのヘイトクライムの実態並びにヘイトクライムに対する捜査 機関及び裁判所のこれまでの対応、国際的な基準、他の国の先進事例などについての調査 研究を行うべきである。
審議会の委員には、差別に向き合ってきたマイノリティ当事者、マイノリティ属性を有 する専門家を複数、選任するべきである。差別撤廃政策を策定する際にマイノリティを関 与させるべきことは、“私たちのことを、私たち抜きに決めないで(Nothing about us without us)”をスローガンに障害者権利条約の制定過程に障害者団体が公的に関与した ように、国際人権基準となってきた。マイノリティの関与は、近時のアメリカにおけるア ジア系の人々へのヘイトクライム対策でも重要視されているし、イギリスの内閣府設置 の専門家機関「人種・民族格差委員会」の委員 10 人のうち9人は民族マイノリティから 選ばれている。

ヘイトクライムがマイノリティ集団にもたらす被害は深刻であり、ヘイトクライムは マイノリティを沈黙させる「効果」、社会への絶望をもたらす「効果」を持つ。被害者が その被害を公的機関及び社会に知らせることができるようにすることが被害救済のた めに極めて重要であり、制度策定にマイノリティの関与が不可欠である。

④「政府言論(ガバメント・スピーチ)」の重要性
政府、地方自治体などによる「政府言論」(ガバメント・スピーチ)は社会に対し大 きな影響力を有する20。今回の連続放火事件のように、公けになっている情報からヘイ トクライムの可能性が高い場合は、無為に判決を待つことなく、昨年、アメリカの大統 領及び副大統領が実行したように、日本でも総理大臣、法務大臣、政府高官、国会議員、 関係地方公共団体の首長及び地方議会議員などは速やかに現地に行き、被害者から直 接話を聞き、ヘイトクライムを許さないと公けに発言すべきである。このような発言や 行動を公的機関、とりわけ政府が行うことが、ヘイトクライムを社会から根絶するため に大きな影響を与える。そして、このような発言や行動は、人種差別撤廃条約や、ヘイ トスピーチ解消法(同法第7条の啓発活動)の趣旨に適う。また、人権行政として現行 法上直ちに実施することができる。

⑤被害者に対する支援、サポート
国及び地方公共団体は、ヘイトクライムの直接の被害者及び同じ属性をもつマイノリ ティ集団に対し、新たなヘイトクライムからの防衛、被害に対する財政的支援、医療的ケ アなどの支援、サポートを行うべきである。

⑥加害者に対する反差別研修プログラム
国は、ヘイトクライム加害者の再犯防止のため、反差別研修を制度的に行うべきである。 例えば、実刑の場合、矯正プログラムの一環として、差別の歴史を含む反差別教育を行う べきであり、執行猶予とする場合には、必要的に保護観察に付し、定期的に反差別研修を 行うべきである。ドイツやイギリス等における加害者更生プログラムとその実践が参考 になる。

⑦現行法による対応、人種主義的動機の量刑ガイドラインの作成等 政府が長年主張してきたように、新たな立法措置を待たずに、現行法によっても、「人 種主義的動機は、我が国の刑事裁判手続において、動機の悪質性として適切に立証してお り、裁判所において量刑上考慮」することは可能なはずである。ヘイトクライム対策は急 務であり、他方、刑法改正などには時間を要することから、当面の緊急対策としてこのよ うな量刑上の考慮が実際に確実に行われるように体制を整備すべきである。 具体的には、警察等捜査機関は、ヘイトクライムの疑いがあるときは、差別に係る犯行 の動機の存否及び内容をも捜査すべきである。検察官は、人種等を理由とする差別に係る 犯行の動機があると思料するときには、公訴の提起及び遂行にあたり、当該事情を考慮す べきである。裁判所は、人種等を理由とする差別に係る犯行の動機を認定したときには、 刑の量定にあたり、当該事情を加重の可否を含め考慮し,加重がなされた場合にはその旨 を判決文に明記すべきである。

このような運用が実際に行われることが担保されるよう、欧州安全保障協会機構・国際 検察協会作成のガイドラインなどを参考にしたガイドラインの作成等の整備を行うこと を求める。

⑧法執行官に対する研修プログラムの策定、実施、プロジェクトチームの設置 適切にヘイトクライムの認定がされるようにするためには、「警察官、検察官及び裁判 官を含む法執行官に対して、かかる犯罪の背景にある人種主義的動機を特定し、苦情を登 録し、ならびに事件を捜査及び訴追するための適切な方法を含む、ヘイトクライムとヘイ トスピーチに関する研修プログラムを実施すること」(人種差別撤廃委員会 2018 年総括 所見パラグラフ 14(f))が不可欠である。また、被害者が捜査及び裁判の過程で二次被害 を受けないようにするためにも、執行官に対するヘイトクライムについての研修は重要 である。各国で実施されている研修プログラムを参考に、政府、裁判所は、「法執行官」 に対する研修プログラムを策定、実施するべきである。さらに、警察、検察、裁判所のそ れぞれにおいてヘイトクライムのためのプロジェクトチームを設置するべきである。

⑨ヘイトクライムの捜査、公訴の提起及び判決の状況に関する調査の実施 国は、ヘイトクライム対策の策定及び検証のため、ヘイトクライムの捜査、公訴の提起 及び判決の状況に関する調査を毎年実施し、ヘイトクライムに関する統計(国籍・民族等 に係る当該属性ごとの認知件数、検挙件数及び検挙人員、終局処理人員並びに有罪人員及 び無罪人員を含むもの)を作成すべきである(人種差別撤廃委員会 2018 年総括所見パラ グラフ 14(h))。

⑩被害通報等の容易化の体制整備
国及び地方公共団体は、ヘイトクライムの被害者及び目撃者が、インターネット上の通 報窓口の設置など、容易に通報し、救済を求めることができる体制を整備すべきである。 アメリカ連邦司法省やカリフォルニア州の日本語で書かれた通報用の各ウェブサイトな どが参考になる。

⑪ヘイトスピーチの禁止、制裁等
国はヘイトクライム防止のためにも、重大なヘイトスピーチについては法律で禁止し、 特に悪質なものについては制裁を課すべきである。暴力の煽動や災害時のデマによる差別 の煽動など、法益侵害の危険性が切迫している類型のヘイトスピーチに対しては、速やか に公けに具体的に非難し、その悪影響をなくす啓発活動を行うべきである。また、インタ ーネット上のヘイトスピーチがヘイトクライムの温床の主要な一つとなっていることか ら、被害者がいちいち裁判を起こすことなく、インターネット上のヘイトスピーチを迅速 に削除できる法整備を行うべきである。

⑫包括的な人種差別撤廃法の制定、救済手続きの設置、個人通報制度への加入
国は、ヘイトクライム根絶のためにも、包括的な人種差別撤廃法を制定し、人種差別 を禁止することを明記するべきである。そこでは悪質なヘイトスピーチ及びヘイトク ライムの禁止規定のほか、公務員に対する研修を制度化し、人種差別撤廃教育、啓発活 動、民族間の交流・相互理解促進策、差別の被害者に対する救済及び支援策などの包括 的な人種差別撤廃政策を策定するための根拠となる規定を置くべきである。 また、国は、差別の被害者が、裁判によらず、安価で迅速な解決をえられるよう、独 立の専門的な第三者による救済手続きを設置すべきである。

さらに国は、国際人権基準に照らしての被害者救済が可能となるよう、速やかに人種 差別撤廃条約第 14 条21の個人通報制度に加入すべきである。

以上。尚注釈は未掲載。

有田芳生国会議員のあいさつがあり「メディアはアメリカのヘイトクライムは報道するが、日本についてもしっかりと報じて貰いたい。ウトロ地区に国会議員が訪れたのは初めてと聞いた、現場に行かなければ政治は動かせない。来年は朝鮮人が虐殺された関東大震災100年です。大きな集会を予定している」と語った。

最後に司会者から6名の国会議員と他に秘書の参加があり、20のメディア参加とオンラインで120の参加があったことを報告した。そして差別を放置して黙して語らないのは、差別に加担することである、声を挙げていこう、と呼びかけた。

(文責:編集部)