東京五輪の反対者を貶めるNHK・BS

文京シビックセンター 地下1階の集会風景 https://vimeo.com/692788055より

【はみ出し五輪ノート】 4月9日(土)に<NHK「河瀨直美が見つめたレガシーはこうして捏造される>という集会がアカデミー文京学習室にて開催された。主催は五輪災害おことわり連絡会、反五輪の会、アジア女性資料センター、オリンピックいらない人たちネットワーク(長野)、都教委包囲首都圏ネット、OurPlanet-TVなどの集会実行委員会。

第一部はNHKBSで放送された河瀬直美監督の撮影を取材した番組の解説があり、第二部では講演としてメディア論、ジェンダー論から考える講演があり、永田浩三さん(武蔵大学)、 田中東子さん(大妻女子大学)が登壇した。さらに第三部ではパネルディスカッションでオリパラ反対に取り組んだ各分野からの問題提起として杉原浩司さん・武器取引反対ネットワーク(NAJAT)、堀内哲さん オリンピックいらない人たちネットワーク(長野)、本山央子さん・アジア女性資料センター、吉田亜矢子さん・反五輪の会の発言があり、続けてフロア討論を行い終了した。

はじめに事実関係について確認しよう。

2021年12月26日にNHKBS1スペシャル番組「河瀨直美が見つめた東京五輪」が放送された。12月30日にも再放送されてSNSを中心として批判が広がる。問題視されたのは番組内で公園でビール片手の男性を取材する映像が流されたが、そこで「五輪反対デモに参加しているとという男性」「実はお金おもらって動員されていると打ち明けた」という字幕が出てくる。ここには実際の発言の音声は出されていない。

お金をもらったデモ参加者がいた、ということを字幕でのみで説明していたのだ。この真偽が疑われた。

男性の取材風景。実際の音声はなく、字幕で説明される

男性の取材風景。実際の音声はなく、字幕で説明される
https://vimeo.com/692788055より

この番組は東京五輪公式記録映画を撮影する河瀬直美監督(以下河瀬)とそのスタッフを取材したNHK独自のコンテンツだ。当然ながら五輪そのものよりも、映画を記録する河瀬自身や監督の眼差しとその先にある事象が取り上げられている。東京五輪周辺の事態や情報も入っているが、あくまで河瀬の発言や想いが中心となっている。

2022年1月9日になって番組制作のNHK大阪放送局がネットなどからの批判があったことに「字幕の一部に不確かな内容」と謝罪し、短いお詫びの放送をする。河瀬と島田角栄(当該の映像を取材)監督が字幕内容については関与を否定している。NHKは虚偽字幕についての「調査報告書」を公表。2月11日にもBS1で「報道に対する調査報告」を放送した。なお、NHKは河瀬・島田両監督と視聴者への謝罪コメントを出したが、反対デモの主催者には今もって謝罪がされていないという。

集会案内には<視聴者の指摘によって、「デモ参加者」インタビューの捏造が明らかになった、NHKBS1スペシャル番組「河瀨直美が見つめた東京五輪」。基地建設反対運動に関する捏造問題と同様、東京五輪に対して反対の声を挙げた人々がカネで動員されていたと印象づけ貶めるねらいがあったのではと指摘されています。しかしこの番組の問題はそれだけではありません。ジェンダー平等、学校のスポーツ教育、被災地復興など、いくつもの点で首を傾げるような内容が散見されます。この番組が示しているメディアの問題は、コロナという困難の中でも東京五輪が偉大なレガシーを残したという公的な語りを固定させて、札幌大会など今後の誘致にもつなげようとする試みの一部といえます。本集会では多様な観点からNHK番組を読みとき、メディアと一体化した「レガシー」の捏造にNOを突きつけます>とある。期せずして今度の東京五輪の問題点が浮き彫りになった捏造放送であり、国家が総動員されたファッシズム的なイベントに対して、異論を許さない国家意思の再定義であり、反対者像のレッテル貼りをおこなうものだったと思う。以下、集会の講演を紹介したい。

●永田浩三さん(武蔵大学)

NHKで番組を制作してきた経験を踏まえ、間違いはつきものと語る。NHKは間違いを認めない、そこが問題なのではないか。番組改変事件の当事者でもあって。スネに傷ある身ではありますが、だからこそ話せるかなと思います。

当該の番組はETV特集とともに看板番組で、良心的とも言われています。NHKは捏造やヤラセとは考えていない、チェックが不十分として説明しました。実はチェックの問題は過去にも「クローズアップ現代」という番組で事実が疑われました。

素材は「公式記録映像」からもらっている。スタッフを含めて河瀬監督や島田監督の市民感覚や現場取材力そのものが弱かったのではないでしょうか。(要旨)

●田中東子さん(大妻女子大学)

河瀬監督やNHKが完全に体制側に寄り添っていることがう伺える。社会運動についての蔑視みたいな感情が端々から見える。河瀬監督の思考や意識なのだろうが「神」や「人類」という言葉に表されることに違和感がある。「ポストフェミニズム」というジェンダー体制がでてきたが、それは現代社会の女性の位置づけをめぐる問題で、体制を補完するものとして役割を与えられている。

メディアと報道の問題としては旧態依然の価値観でつくられていること。そして五輪そのものにも過剰なスポーツの役割付与や女性活躍という女性を利用するというもの(女性蔑視の裏側)があり、実態としては女性差別は解消されない。(要旨)
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この後は参加団体からの発言とフロアからの質疑と応答が続き、コロナ禍での東京五輪強行という問題と総動員体制からくる言論・表現の抑圧・統制の問題が多角的に語られた。
(本田一美)

●参考
2020年オリンピックおことわり!
http://www.2020okotowa.link/