総選挙の結果を踏まえ壊憲に抗し、憲法を活かす運動を

講演する清水雅彦さん

11月23日に松戸市で清水雅彦さん(日本体育大学・憲法学)を迎えて<「憲法改正」はどこへ進むか/総選挙の結果と今後の運動について>と題する講演会が開かれ、80名以上が参加した。主催は活かせ9条松戸ネット。

清水雅彦さん

■緊急事態条項論の内容の問題点

自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日)の第9章緊急事態では条文(98条1項、99条1項、3項)で内閣総理大臣の権限で緊急事態の宣言と、政令、国その他の機関の指示に従わなければならない、としているが、あいまいな規定であり、テロリズムなども含まれ、防止不可能な自然災害と防止可能な戦争を混同している。また首相の権限強化となり、国会の事後承認となり国会が軽視される。人権はどこまで尊重されるのか不明だ。

さらに4項目改憲案の緊急事態条項(2018年3月)では政令の制定、国会の承認を求めている(73条の2)。また選挙のできないときに各議員の出席議員の3分の2以上の多数で特例を定めることができる(64条の2)、としているが、任期の異なる二院制をとっているので必要なのか? 政令だけの政治の危険がある。「大規模災害」という規定も「武力攻撃災害」として適用されるおそれがある。

緊急事態を容認する権利は憲法あるのか。英米では法律で対応している。独はワイマール憲法48条の大統領の非常事態権限の濫用・悪用でナチスも活用した。

日本国憲法では緊急事態については大日本帝国憲法にあったが、規定はなく戦前の反省から「沈黙」したのだろう。憲法に規定はないので「国家緊急権」はないとみる。一部がいう「コロナ対応のために改憲」については以上にみたように条項はなく、独仏では発動していない。緊急事態条項論は「お試し改憲論」だが、全面改憲につながる危険なものだ。

■9条改憲論の内容と問題点

自民党の「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日)第2章安全保障は復古調になっている。第9条第2項では「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」とあり、第9条2第1項「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。」、第9条2第5項「国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。」とある。

あらためて9条の解釈と意義を確認してみたい。9条1項の戦争の放棄は「戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」というのは、先の日本の戦争の反省から自衛戦争も含む一切の戦争の放棄だと考えられている。

9条2項の戦力の不保持は「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」についても自衛力保持も許されないとみるのが多数派である。改憲派は侵略戦争は認められないが、自衛力は保持できるとしている。

歴史的には国際連盟(1919年)のなか平和維持がもとめられ、不戦条約(1928年)戦争違法化が提起され、国連(1945年)で戦争を終わらせる流れとなり、さらに軍隊や兵器を制限する流れだ。

そして「立憲主義からは理想を書き込まないのが、理想の憲法である」のにも関わらず、安倍元総理は「憲法は、この国の形、理想の姿を示すものです」と述べる錯誤。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a196049.htm
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b196049.htm

さらに9条に4項目の「加憲」論(2018年3月)を展開している。

第9条の2 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。」

2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

https://www.aiben.jp/about/library/post-78.html

「加憲」されると、「自衛隊違憲」が法律上言えなくなる。また、後ろに書かれたことにより、従来の戦力不保持は空文化する。これは「改憲」「壊憲」である。集団的自衛権も行使できる自衛隊の正当化するもので、自衛隊も「公共化」される。土地収用や徴用、軍事研究が促進される。徴兵制については戦争の形態が変わってきているため難しいと思う。

安倍元総理は米国の戦争にも積極参加するものとなる。これに対抗するため、憲法にある9条と前文の「平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という平和の重層的な追求で構造的暴力(国内外の社会構造による貧困・飢餓・抑圧・疎外・差別など)のない状態を目指すものとなる。

そして「労組と市民と野党」の共闘がもとめられる。「戦争をさせない1000人委員会」(2014年3月)がつくられ、平和フォーラムや立憲フォーラム(旧民主党リベラル、社民党、無所属国会議員など)や自治体議員立憲フォーラムなどと連携している。また、「戦争する国づくりストップ! 憲法を守り・いかす共同センター」(憲法共同センター)も全労連、自由法曹団、共産党などの構成でとりくみをしている。

その後は「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)が2015年に総がかり行動実行委員会、学者の会、立憲デモクラシーの会、ママの会で構成し野党共闘を求めている。さらに「9条改憲NO!全国市民アクション」が九条の会が参加して、全国的に統一署名運動や毎月の行動を組織している。

これらにより連合と全労連、全労協に所属する労働者の統一行動が実現し、5月3日の憲法記念集会の統一され(2015年~)、埼玉では連合埼玉と埼労連が共闘している。他での恒常的な行動が求められる。

選挙(2021年衆議院)をふり返れば、得票率が55.93%で戦後3番目の低さだ。自民党の得票率48.08%で64.70の議席を獲得し小選挙区制のおかげである。前回より得票数が増えて議席減となる。しかし単独で絶対安定多数だ。立憲民主党は得票数増・議席減となり、共産党は得票数・議席減、社民党は得票数増・議席同で、前回総選挙からの議席数増減は与党が-19、希望・維新-20、野党が+42だ。課題として与党は複数区・一人区などの候補者を早くから決めているが、野党は候補者一本化や調整ができていなかったし決定も遅い。統一しなければ勝機はないのだが…対立・分裂を繰り返してきた左翼・リベラルの反省点だ。

参議院選挙に向けて、まず憲法改正手続法に問題があり、国民投票に持ち込ませないたたかいが求められる。発議を断念させる運動と世論づくりが大切だ。「労組と市民と野党の共闘」の発展、権力を取る運動へと向かうべきで、それには個人でもやれることはたくさんある。若者にはたらきかけて、自己規制や忖度、萎縮しないことを心がけよう。

(文責:編集部)