大衆文化にみる日本の戦争―軍事教材や軍国美談、映像メディアでたどる「銃後の戦争」

番組宣伝タイトル『名もなき人々の戦争』 (huluより)
https://www.hulu.jp/war-of-innocents

夏になると戦争のドキュメンタリー映画が公開されたり、放送される。私はテレビを持っていないので、放送は見逃すというか見れないのだが、放送や映画の配信サービス(見放題のサブスクリプションサービス、いわゆるサブスクなのだが)が一般的になって、たまに利用している。商業映画や連続TVドラマが主だが、ドキュメンタリーも流されていて、希少なものも流される。そこで今(2022年9月現在)配信されているのが『名もなき人々の戦争』だ。ヒストリーチャンネルという番組枠で、8月6日から公開されている。

番組のサイトには「日本のいわゆる“15年戦争”を一般市民の目線で辿るヒストリーチャンネル制作オリジナルドキュメンタリー。日本を破滅の淵へ追いやった戦争を政治・思想・プロパガンダ・ポップカルチャーなど様々な角度から専門家たちが紐解き、当事者たちの証言を通して激動の時代が蘇る」とある。英語だが字幕と証言(日本人は日本語の場合もある)で戦争に突入していった日本社会と民衆のあり方を綴っている。

この映画がユニークなのは日本が戦争に向かっていった状況を、大衆文化や民衆の視点で説明、社会や生活への影響を紹介しているところだ。

はじめに1925年の普通選挙法のことを語り、民主的な気運が高まったと伝えている。付言すれば、満25才以上男子による普通選挙であり、かつ内地に居住するという条件があり、さらに女性には認められてはいなかった。同時に同時に治安維持法案が成立している。

当時の風俗であるモボ・モガの流行も紹介して、日本が第一大戦後の利益を得て都市文化や自由な雰囲気があったことを説明している。

いっぽう国粋主義者たちが日本国家の統治に天皇制を利用したことを匂わせている。天皇制が日本人の間に定着するのに何十年もかかった、とドイツ人医師ベルツの日本観察の当時の日記を引用している。「日本人の天皇の無関心ぶりは嘆かわしい、警察に警察の力で家々に国旗を立てさせねばならず、自発的におこなうものは少ない」(1880年)

義務教育、宗教儀式、徴兵制度を通じて20世紀のはじめに天皇制は根付いた、という。まさに日本国民は「洗脳」されたのであり、天皇制国家が完成したと言えるだろう。

1931年の関東軍が仕掛けた柳条湖事件から「満州事変」となり、満州における軍事展開およびその占領の口実として利用された。そして1937年に日中戦争へとつづいて行く。

「爆弾三勇士」や「木口小平」など軍国美談が盛んに宣伝され、それにまつわる雑誌・本やおもちゃがつくられて、新聞は戦利・戦勝をまるでスポーツのように伝えて戦争を煽った。

信濃毎日新聞の桐生悠々や作家の宮本百合子のような軍国批判は弾圧された。思想犯の取り締まりが厳しくなっていった。

北海道では治安維持法で美術教育への取り締まりがあり、約90名が検挙された。それが「生活図画事件」(1941年~)である。

さらに全国民が戦争に動員された。町内会や隣組が組織され、「国防婦人会」が結成された。皮肉なことに男性が兵隊にとられて人手が足りなくなったせいで、女性の社会進出が進んだのである。

戦況の旗色が悪くなって、資源や燃料が足りなくなると金属が回収されたりしたが、木炭自動車がつくられて、木炭を回収する映像も出てくる。

対馬丸で九死に一生を得た方の生々しい証言が出てくる。対馬丸は民間人や児童たちが那覇から疎開するために長崎へ向かう途中で魚雷攻撃を受けて沈没した(1944年8月)。6日間漂流して無人島に漂着し生還したという。

30年に渡って沖縄の戦死者の遺骨を発掘してきた具志堅隆松さんは、「日本軍は沖縄を守らず天皇を守った」と語る。

「生活図画事件」で犠牲となった菱屋良一さんが、当時を振り返る。画家の野見山曉治さんは召集・出征式のときの違和感を語る。コレクターの北原照久氏が戦争にまつわるおもちゃを紹介したり、早川タダノリ氏が当時の雑誌やふろくを提示したり、この作品は証言者も多彩だ。

また、当時の珍しい映像も豊富なので、様々な論点や考える動機にもなるだろう。ここから興味のあるジャンルを探るのもいい。やや駆け足ではあるが、戦争への道を担った数々の素材が提出されている。歴史として天皇が民衆のなかに根付いていなかったことを指摘していることや、戦意を保つために空爆に対して実害を否定し、避難よりも消化活動や防衛に備えることを推奨したこと(結果として被害が拡大)などあらためて注目すべきところだろう。ネット配信なのでいつでも見れる。ぜひ見てほしい。

(本田一美)

当時の兵隊人形を見せる北原照久さん

当時の兵隊人形を見せる北原照久さん(映画ログプラスより)


多くの戦争・軍国の冊子が発行された(映画ログプラスより)

多くの戦争・軍国の冊子が発行された(映画ログプラスより)


https://tokushu.eiga-log.com/new/144755.html

『名もなき人々の戦争』
監督:小野 怜

ヒストリーチャンネル

名もなき人々の戦争

■各種配信サービスURL
・Amazonプライムビデオ:https://www.amazon.co.jp/gp/video/det…
・Hulu:https://www.hulu.jp/war-of-innocents
・U-NEXT:https://video.unext.jp/title/SID0071223
・Rakuten TV:https://tv.rakuten.co.jp/content/426190/
・Apple TV:https://tv.apple.com/jp/show/war-of-i…