略奪文化財の返還を求める―侵略の歴史の清算を
4月21日(木)衆院第1議員会館の大会議室で日中国交正常化50周年企画として、「中国から略奪文化財の返還を求める緊急集会が」開かれた。主催は中国文化財返還運動を進める会。
本集会に先だち4月11日に衆議院第2議員会館で記者会見を開いた。記者会見には会の共同代表でもある。纐纈厚(山口大学名誉教授)、五十嵐彰(慶應義塾大学非常勤講師)、東海林次男(東京都歴史科学協議会会長)、藤田高景(村山首相談話の会・理事長)などが出席した。
この会は昨年から準備をすすめてきて社会運動として大きくしたいという。会の一瀬敬一郎弁護士から配布資料の説明があり、中国から略奪された文化財の一部として、靖国神社の狛犬や皇居内の「鴻臚井碑(こうろせいひ)」が挙げられている。
纐纈厚名誉教授は、「過去の歴史を認識すればこそ、人の命は戻らないが文化財は残っている、返すことで和解をする、歴史を清算することにつながる」と訴えた。
会の設立は中国の民間団体が返還要求を始めたことがきっかけになったとだという。中国では海外に流出した文化財に対する社会的関心が高まっているという。たとえば遼寧省から略奪された石像や碑の返還を求めていて、宮崎の八紘一宇の塔(平和の塔)の一部が略奪品の石が使われているという。
(「東京新聞」4月11日)
21日の集会は主催者挨拶の後に立憲民主党、日本共産党、社会民主党、沖縄の風の各議員の挨拶があり、高野孟氏(ザ・ジャーナル編集主幹)と五十嵐彰氏(慶應義塾大学非常勤講師)が特別講演をおこなった。そして吉田邦彦氏(北海道大学教授)がアイヌの集落の跡地に北海道大学がつくられていることを話し、アイヌの骨の返還問題で直接アイヌの人々へは戻されないという状況を説明した。
鄧捷さん(大学教授)は中国での民間の文化財返還の活動について報告し、中国民間対日賠償請求連合会の資料を紹介した。文化財の「鴻臚井碑(こうろせいひ)」は714年に渤海国が冊封盛典の記念として旅順口に建立された。1895年には清国の官吏が保護のために亭をつくった。日本海軍が1908年に日露戦争の戦利品として天皇に献上した。現在は皇居吹上御苑の庭に置かれている、という。
凌星光氏(福井県立大学名誉教授)は欧米列強が植民地時代に収奪した文化財については返還することが国際的な流れとなっていることに触れて、何がなんでも返さなければならないとは思っていないと語り、例えばアジア方式があるのでは、文化財を通じて相互にやりとりをして平和の証として留まることもあってもいいと話した。
最後に「大阪城狛犬会」のメンバーが大阪での活動を紹介した。大阪城の西ノ丸北門にあるこま犬は、中国の明の時代の国宝級の文化財だ。1937年の盧溝橋事件以後、天津を占領し、そのとき天津市庁舎前のこま犬を「戦利品」として略奪し、戦意高揚の宣伝として利用された。大阪の市民たちが返還運動を起こして、1984年には中国政府から「友好の証」として寄贈されたが、こま犬の説明板には歴史的な経緯が掲載されていない、としてきちんとした由来を求める運動を起こしている。
http://oosakajokomainu.net
なお当サイトでも以前の記事で「略奪文化財の原状回復を求める」があるので参照願いたい。
略奪文化財の原状回復を求める
●五十嵐彰さん(慶応義塾大学非常勤講師)
文化財返還運動は目に見えない傷を修復することと思う。見えないものを見ること、本来ある場所にもどすことにより修復することになる。文文化財の略奪、それは私たちいのモノに対する欲望が、植民地や戦争と結びつくことにより起きている。略奪された文化財の無言のメッセージを聞き取る。そのことを考えてみたい。
略奪文化財は不法に奪い取られたものですが、収奪文化財は瑕疵文化財とうべきもので植民地構造や力関係で不当に奪ったもので、不法ではなくても不当です。法を超える道徳論が求められます。
永青文庫には盗掘された文化財があります。盗品が国宝になっています。これは国家が盗品にお墨付きを与えたものである。
あるべきものをあるべき場所へ、真の価値の見直しとなる。モノの経緯を明らかにして、どのようにしてもたらされたかという由来が文化財の価値となる。
(文責:本田一美)