レイシズム・ヘイトにレッドカードを―『サッカーと愛国』

浦和レッズ「JAPANESE ONLY」問題のページ(「ハフィントンポスト日本版」2014年03月13日)

浦和レッズ「JAPANESE ONLY」問題のページ(「ハフィントンポスト日本版」2014年03月13日)

スポーツ観戦を素直に愉しめなくなったのはいつごろからだろう。正確にいえばスポーツの国際試合なのだが、とくにオリンピックやワールドカップなどの国別対抗などの試合は周囲の雰囲気や外野の情報がうざったく、観戦する気が起きない。シンプルに選手の躍動する姿を堪能したり、試合のスリリングな展開に身をまかせておけばいいのだ。なぜそれができないのか?

オリンピックやワールドカップというスポーツイベントは国家を過剰にまで入れあげ、ナショナリズムを煽る装置である、といったら言い過ぎだろうか。『サッカーと愛国』(清義明 イースト・プレス 2016年)は、サッカーと排外主義の関わりを丹念に追いかけた本で、「2002年日韓ワールドカップ」以後のネット右翼とサポーターの周辺を取材している。後半部分では世界のサッカーのなかでカウンターの動向なども紹介し、サッカーとナショナリズムのやっかいな結びつきとそれに伴う紛争事例を教えてくれる。

「自称・日本サポーター」という一人に著者がインタビューする。そこからサッカーをよく知らない人々が、ネタとして盛り上げれる場やツールとしてサッカー日本代表の試合を取り上げるようになったことが明かされる、それらは通称「ネトウヨ」と呼ばれる人たちだ。つまりサッカー自体がナショナリズムに利用されてしまっている、ということなのだ。

もともと日本サッカー協会や古いサポーターはそれまでの東アジアでの試合の体験から、応援に関しては配慮が必要だとの認識があった。日本サッカー協会の試合運営管理規定では「政治・思想・宗教・軍事的な主義、主張、観念」を横断幕にすることは禁止する、とあるという。

今年(2017年)、サッカーの国際試合でサポーターが「旭日旗」を上げて掲げて騒動になったが、歴史についてあまりに無自覚な日本のあり方を示すものだろう。

旭日旗はなぜサッカースタジアムで禁止なのか? 関係ない日本側の主張、知るべき国際ルール
https://www.footballchannel.jp/2017/04/27/post208640/ 

Jリーグでの浦和レッズの試合でも一部サポーターが「JAPANESE ONLY」という、差別と受け取られても仕方ない横断幕を掲げて無観客試合というペナルティを受けている事件は記憶に新しい。

浦和レッズ「JAPANESE ONLY」問題、1試合無観客試合の処分 レッズは横断幕禁止を発表(「ハフィントンポスト日本版」2014年03月13日)
http://www.huffingtonpost.jp/2014/03/13/reds_n_4954003.html

ただ、サッカーの本場である欧州でも民族排外主義は跋扈していてテレビなどではそのような応援や声が入らないようにしているらしい。それでも問題が起きたときは厳罰をもって対応している。それでも差別・排外の発言は止まらない。欧州での状況も紹介している。

「1980年代にはイギリスでもナショナルフロント(極右政治団体)がサッカーサポーターを、いわば戦略的に排外主義活動にリクルートしていました(略)昔からのレイシズムも根強くあったため、これらが結びついてしまっていた。現状でもこういう傾向は強い」(p.209)

終章では左派オルタナティブがサポーターとして結集したドイツの「FCザンクトパウリ」やイタリアの「ウルトラス」というサポーター文化を紹介している。また在日コリアンのサッカーチームについても言及している。そして世界には反ファシズムの旗印を掲げて、ネオナチや排外主義者と闘うサポーターグループがあることも書いている。

欧州きっての「左翼」のサッカークラブ、ザンクトパウリとは -ハンブルグの海賊の「政治とサッカー」
http://masterlow.net/?p=2614

サッカーのサポーターは年数回の試合がある代表チームではなく、ローカルなチームの地元意識がコアだという。当然ながらチームを愛するのは個人であり、「国民国家」がそれを教育として利用したり、統合のツールとして作用したりする。サッカーというスポーツが同質性を育て共有感覚を育むと同時に、他者に対しては排外的なものとなって表れる。ことはサッカーというスタジアムだけに留まっているわけではない。相対化して対抗する術を身に着けよう。

日本でも横浜J.マリノスや浦和レッズが人権学習を始めているという。彼らを応援しようではないか。ともに学び、ヘイトを排除していこう。(本田一美)


参考
・FCザンクトパウリの難民支援ページ
http://www.ssksports.com/hummel/2015_st_pauli2/