朝鮮半島情勢のゆくえ…シンガポールでの取材から

「米朝会談」を報じた各国語の新聞

「米朝会談」を報じた各国語の新聞

6月12日、歴史的な米朝首脳会談が実現したが、会談前の5月24日に大統領が突然中止を発言したときに、すぐさま日本政府は理解を示し、メディアも日本政府は前向きに捉えている、と報道した。(「日本経済新聞」2018年5月25日付 web版)圧力一辺倒を主張してきた日本政府がいまさら会談=対話などと考えられないのだろう。米国・トランプ大統領への日本政府のポチぶりは今に始まったことではないが、その後の会談実現への流れを見れば、誰がみても無様に写っただろう。


・米朝会談中止、首相「判断を支持」 再調整に時間との見方 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31005030V20C18A5EA2000/

日本テレビ「news24」のHP

日本テレビ「news24」のHPから


・日本政府は「前向き」の声(日テレ24)http://www.news24.jp/articles/2018/05/25/04394128.html

その後、会談がおこなわれても日本のメディアは「中身がない」「世紀の茶番」などと揶揄する報道が大勢を占めている。日本政府も公然と敵視を続け「北朝鮮の核・ミサイルの脅威についての基本的な認識に変化はない」と「防衛白書」に記している、という(朝日新聞 2018年7月19日付 web版)。結局のところ今の日本の政権維持のために仮想敵国朝鮮が必要だ、とういうこと。その構図がなくなることは現体制が支持されなくなる、ということだ。現政権が相も変わらず旧来の発想を続けていればいい、と思考停止状態なのは明らかだ。

7月9日、ルネサンス研究所の定例研究会でシンガポールの米朝会談を現地取材した浅野健一さん(ジャーナリスト・同志社大学大学院教授:確認訴訟中)に話を聞く機会があった。

浅野健一さんは詳細なレポートを配布し、シンガポールのホテルやプレスセンターの映像を映しながら取材の過程など話した。

ビデオ映像を映しながら説明する浅野さん

ビデオ映像を映しながら説明する浅野さん

■浅野健一さんの話

D.トランプ米大統領と金正恩朝鮮国務委員長の朝米会談がシンガポールで開催されることが決まってから、現地取材を決めた。ネットから取材申請をおこない、私にオーケーが出たのは9日だった。10日にオープンした国際メディアセンターで記者証を交付された。全世界から約2500人の報道関係者が集まった。日本からのフリー記者は少ないようだ。警戒は厳重で、会見現場の取材はできないが、ホテル前などの通りは割と自由だった。

ノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のフィン事務局長も来ていて、記者会見で「米国こそ核兵器をなくすべきで、朝鮮だけに求めるのはおかしい」と語ったが、そのことを伝えた日本の新聞は見当たらない。

会談の成功をみんな喜んでいた。在外コリアンたちは当然だが、観光で訪れた人々や多民族で構成されるシンガポール市民たちも歓迎していた。米プロバスケットボール(NBA)の元スター選手で、たびたび訪朝しているデニス・ロッドマン氏もシンガポールに着いて、喜びを語った。

共同声明の文章が日本のメディアでも訳されていたが、肩書が誤訳されている。共同通信では「北朝鮮の金正恩国務委員長」となっている。他のメディアもほぼ同様だ。「しんぶん赤旗」のみ「朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長」と正確に訳されている。そのうち「北朝鮮」という表記や発言ができなくなるのではないかと思う。

最終的には朝鮮戦争の終決を目指すことになるだろう。トランプは明言した「戦争を止めることは大事だ」と。日本では日朝会談を前提として動いているが、国民に信頼されていない安倍政権を相手にしないだろう。日本の侵略戦争の責任をどうするのかが突きつけられている。

2014年のストックホルム合意に関して、朝鮮側が調査報告書を出したにも関わらず、日本側が受け取らなかった。日本政府は調査団を2回派遣しているが成果がなかった。その事実は秘されている。
(文責編集部)

浅野さんは、会談があったセントーサには日本のシンガポール侵略を展示している戦争記念館があり、日本軍の慰安所があったのだが、日本のメディアはかつてシンガポールを侵略し「昭南島」と名前を変えて、住民を虐殺したことは、報じない、と都合の悪いことの頬かむり状況を批判した。(本田一美)

講演する浅野さん

講演する浅野さん。胸に下げているのはシンガポールメディアセンターの記者証

■参考
「安倍首相が米朝会談開催地を進言」が本当なら大失態! シンガポール・セントーサ島は日本が朝鮮人慰安婦を連行した場所(リテラ 2018.06.11) 
http://lite-ra.com/2018/06/post-4061.html

浅野健一のメディア批評
http://blog.livedoor.jp/asano_kenichi/