9条からの外交で平和の創造を―孫崎亨さん
「軍拡で日本の平和、命と暮らしは守られるのか」と題して5月5日(木)午後1時から「第13回かしわ市民憲法集会2022」が柏市民文化大ホールで開かれた。集会は戦争は許さない市民合唱団による歌声で幕開けし、外交・政治評論家の孫崎享さんが記念講演をおこなった。主催はかしわ市民憲法集会実行委員会と柏市民憲法連絡会。
孫崎亨さん 「平和を創る」
はじめに孫崎さんは、日本国憲法9条の第二章を確認した。言うまでもなく武力と戦争の放棄であり、戦力と交戦権を認めない、というものだが、それには日本の敗戦直後に首相となった幣原喜重郎の果たした役割が大きいだろう。
孫崎さんは、外務省時代の先輩の言葉を思い出して、外交とはできるだけ半分以上の点をとるということという――「外交は価値観の違う世界であり、予測のつきがたい世界です。しょせん灰色で、はっきりと黒白と割り切ることができない。あるいは善玉と悪玉だといい切れない、そういう訳の分からないところでの勝負で、百点満点ということは望むべくして望めないのが現実です」
現在のロシアのウクライナ侵攻について、経済制裁と糾弾というのは世界の主流ではない、とも語る。リベラル側が糾弾一辺倒では自民党と同じで選挙になったら、そのままでいいじゃないか、ということになる。解決の道はある。民族自決権を与えて国民監視の元に選挙をする。リベラル政治家はそれを語らない。憲法9条を護りたいのであれば他国に対しても平和的手段を追求すべきではないか。
そしてかつての米国のキッシンジャーの意見を紹介する。キッシンジャーはウクライナについて、複雑な歴史を持つ地域と認識していた。ロシアはウクライナから始まり、ロシア正教はそこから拡大していった。多言語で西はカトリックで東はロシア語であり、一方が他方を支配しようとすると内乱か分裂になる。それで彼はNATOを拡大しようとは思わなかった。ウクライナが独立したのはソ連崩壊後であり、ウクライナは妥協や歴史的教訓を学んでいなかった。
妥協については過去の日本の事例を挙げて報告した。例えば日本が第二次世界大戦に突入する前に、日米交渉でハルノートを付きつけられる。そこには「日本のシナ(中国)及び仏印からの全面撤兵」があった。そんなものは受け入れられないと、東条英機(陸軍大臣、後首相)は主張し、誰も批判できなかった。その結果は真珠湾攻撃で戦争に突入し、結果として310万余の死者、国富被害は約653億円となった。
もし巨視的視点で判断できていれば、屈服という感情を抑えてハルノートを受け入れたのではないか。外交は相手があるもので自分達の見解の100%実現は難しい。多くの場合はマイナスの選択を迫られる。妥協によって失うものと妥協しなかった場合では、結果として失うものは圧倒的に後者が多い。
日本は今後、中国や韓国や北朝鮮やロシアとの関係で妥協を迫られるときがあるかもしれない。そのときは冷静になり過去の事例を思い起こしてほしい。そして選択の価値判断で最も大切なことは、その問題がいかに国民の命を維持すること、生活を豊かにすることになっているかということ。しばしばそうなっていないし、嘘と詭弁で思い込まされていることに気づいてほしい。
日本を取り巻く環境では台湾有事が叫ばれている。米国の国防省では台湾海峡有事における米中衝突で模擬想定をおこない、米国が敗れるとの結果がでているとアリソン元国防長官顧問が伝えている。中国や北朝鮮は核を使ったら自分の国も破壊されることはわかっている。軍事力で倒すことはしない、そう伝えること、そこから始めるべきだろう。
日本の役割はポツダム宣言の通りの日本の領土確認からくるもので、紛争を発展させないようにすることだ。それは尖閣諸島の扱いで、日本・中国・台湾で領有権を争っている。田中-周恩来会談で「棚上げ論」として現状を追認していた。これを再認識したほうがいい。
最後に政治状況にも触れる――今、改憲を阻止するための抵抗勢力が分解する危機的状況に置かれている。これを打開していく必要がある。例えばネットの使い方だが、ネトウヨに負けている。橋下などのフォロワーが多いが、立憲民主党は少ないし、snsが立ち遅れているので、もっと心ある人が参画してほしい。
国連の果たし役割が問われている。ソ連崩壊後に国連の存在感は低下した。国連憲章は充分価値あるものだし、日本が率先して護っていくことが重要だ。核兵器の禁止は難しいが、国連を通じて非核保有国への核攻撃は禁止とすること、非核地域を決定していくことが求められる。
――孫崎さんは国連を重視し積極的に活用していくことを提起した。
(編集部)