在日クルド少女を描いた映画『マイスモールランド』

映画『マイスモールランド』より

2021年2月に日本政府は「入管法改正案」を国会に提出したが、その翌月にスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が入管施設内で亡くなった。それに対して世論の激しい批判があり、政府は法案を取り下げた。

だが、2023年の通常国会でかつての法案と同じものが提出され、法案は4月28日に衆院法務委員会で可決され、5月初旬にも衆院を通過する見通しだ。

その法案の対象となる難民家族をあつかった映画を観た。『マイスモールランド』(監督・脚本:川和田恵真 2022年)である。

川口市に住むクルド人の4人家族が難民申請をしているのだが、その長女のサーリャが主人公だ。将来は小学校の先生を夢見て、みんなからはさっちゃんと呼ばれている普通の女子高生だ。彼女はコンビニでバイトをして、カラオケで遊んだり、同い年の同僚の男子と恋をしたり、普通に青春している。

ある日突然、難民申請が却下されて、家族は在留資格を失う。家族4人でその話を聞くが、まさに戦慄のときだろう。父はなぜだと問いただすが、明確な理由は明かされない。その瞬間から日本からの強制退去の対象となり、仮放免の処置となる。

仮放免は働くことができないし、居住地域の外にも出れない。働かずにどうやって生きていくのか、働かなければ生きていけない。父は解体業をしているが車のなかで待機しているときに職務質問を受けて収容されてしまう。

残された子どもたち3人も働くことができない。さっちゃんはコンビニからも解雇され、周囲の人にお金を借りたり、援助交際の真似事もする。

収容中の父は、帰国を選択すれば子どもに在留許可が下りるとこがあるという噂を聞いて、帰国の決心をする。しかし家族はバラバラとなってしまう。長女は弁護士に父に思いとどまるように懇願する。まさに難民としての窮状を描いた映画だ。

それだけだと辛いのだが、さっちゃんとその恋人が河川敷で布に絵の具を垂らして描いたり、東京と川口の境目である橋の上で――仮放免の状況では外には出れないから――その境界を示す看板にお互いの手形を残すシーンなどは爽やかであり、救いでもある。

ここで難民認定の問題ではなく、なぜ人は移住するのかについて、そして外国人差別のことを考えてみたい。なぜなら―人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする―という差し迫った事由ではなく移住することもあるからだ。

通常は難民の場合は紛争・迫害が理由なのだが、それも遠因として職や貧困などが理由であったりする。それが欠けているから起きてしまうこともあるのだ。その意味では職や貧困であっても広義の難民であると思う。つまり不平等や格差などにより発生するのが紛争であり、難民であり、さらに居住することが困難になるということ、それが移住を選択せざるを得ないということではないのか。

以下は国連加盟各国の「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(GCM)」の移住に付随する不平等を解消するために、加盟国によるさらなる取り組みを求める提言と批判である。

世界的、地域的、国家的な所得の不平等は、職を求める人々の移住を促し、それらの人々の多くが、その後、安価な労働力(さらには天然資源や土地)を求める企業により、企業の利益の最大化のため、搾取される。資本主義的生産と移住との間の関係性を認め、それに取り組むことがカギとなる。ディーセントワークに就けない状況では、人々は移住せざるを得ない。他に選択肢が無ければ、たとえ「正規」な方法でなくとも移住するだろう。(「加盟国は不平等を解消し、移住がもたらす利益を生かせ」 2022年07月05日 ヘブン・クローリー)

国連大学政策研究センターのウェブサイト 
https://ourworld.unu.edu/jp/member-states-must-tackle-inequality-to-harness-the-benefits-of-migration

話を広げすぎてしまったようだ。ここでは展開できないのだが、外国人であろうが生存権があり、人間として尊重するということ。人間の不平等や差別を許さないというのが最低限の基本なのだろう。

日本の政府関係者やマスコミは普段から外国人排斥を匂わせる発言や日常的に(嫌韓・反中を含めて)アジア人蔑視の意識を育んでいた。それが今回の入管法の改悪・厳罰化につながっていると感じる。

(本田一美)

■参考
映画『マイスモールランド』
https://mysmallland.jp/

Q&A 2023年版 #入管法改悪反対 #刑罰ではなく在留資格を
https://migrants.jp/news/voice/20230127_2.html

マイスモールランド

映画『マイスモールランド』より