池澤夏樹さんを迎えて「沖縄のいま、メディアのいま」を語りあう

10月29日(土)にオンラインで「復帰50年 沖縄のいま・これから――沖縄にとって日本とは何か/メディアは何をすべきか」というシンポジウムが開かれた。主催は日本ジャーナリスト会議(JCJ)。

出席者は基調提言に作家の池澤夏樹さん、パネリストに金城正洋さん(元琉球朝日放送記者・ジャーナリスト)、黒島美奈子さん(沖縄タイムス論説副委員長)。

はじめに司会の米倉外昭さん(琉球新報論説委員)が 、JCJ沖縄として復帰50年をとらえかえすことを企画した、ロシアのウクライナ侵攻を背景に沖縄は「台湾有事」論に席巻され、自衛隊のミサイル配備、 日米共同作戦計画などに翻弄されてきた。かつて沖縄県民であり、 沖縄に精通する作家・池澤夏樹さんを迎えてJCJ沖縄のメンバーとともに考えたい、とあいさつした。

その後は池澤夏樹さんから提言を受けて、沖縄の金城正洋さん、黒島美奈子さんから報告を受けた。最後に池澤さんたちが進めている沖縄の情報発信をするウェブサイト「あまくま琉球」の紹介もあり、協力を呼びかけた。
https://amakuma.ryukyu/

金城正洋さんは「台湾有事」について、中国脅威論を煽りつつ南西諸島への軍事化を進めておきながら、民衆の避難・保護は顧みないという欺瞞や、ウクライナのように難民が押し寄せる可能性に言及した。

黒島美奈子さんは那覇市長選挙を振り返り、無党派層の獲得に失敗したことなど問題点を語り、沖縄の新聞広告に百田尚樹の本の広告が掲載されたことや、ひろゆきの言説が沖縄ヘイトを増長させている点を批判した。

ここでは池澤夏樹さんの話を要約して紹介する。

池澤夏樹


復帰50年シンポ 作家池澤夏樹さん語る(「沖縄タイムス」 2022年10月23日より)https://www.okinawatimes.co.jp/articles/gallery/1045093?ph=1


基調提言■池澤夏樹さん(作家)

分断ということがある。かつて東西冷戦があったが、狭い地域でも対立する。世論が2つに分かれ極論から極論となる。ジャーナリストはどう向き合うべきなのか。

かつては知識人がいて、専門の知識があったのだがsnsで誰でも発信できる時代となり、言いたいことだけになっている。皆かなり感情的だ。

日本という国は島国で、中国から文化・文明を入れてきた。丁度よい距離でもあった。沖縄は台湾と日本の間にあり、明との貿易をおこなっていたが、薩摩藩に侵略されて琉球処分へとなっていった。沖縄は第二次世界大戦で戦場となった。日本で唯一地上戦がおこなわれた。私の年齢と敗戦の年は同じなのだ。

ヤマトの人たちは日本から沖縄がないということは意識していないのではないか。米軍基地を押し付けるのは、日本にとって都合の良い島だったからではないか。

時代として製造業は衰退している。ものをつくって利益を得るというものではない。米国のGAFAのように情報産業が主流になっている。これはどこでも起業できる。沖縄のように離れた地域、不利な状況であっても関係がない。これで未来の図を描けないだろうか。日本政府がそういうかたちでの国土の扱い方を考えるならば、平和で豊かな沖縄の未来像が描けるのでないか。

私は普天間基地を辺野古の基地に移すことには反対してきた。海底がマヨネーズ状態であることは政府も分かっている。日本政府は硬直して意地になっている。強権になっていて自暴自爆になっている。事態は大東亜戦争の中期以降に似ている。皆誰も無理だと思っても、戦争をやめようという勇気がない、皆が責任を回避して逃げているうちに戦争はひどくなり、毎日人はたくさん死んでいるし追い込まれてしまった。

那覇の大空襲(「10・10空襲」1944年10月10日)があって、翌年3月に東京大空襲があり、それから沖縄戦があり、ヒロシマ、ナガサキがあり、それでようやく終戦という言葉を天皇が口にした。それも妨害もあったうえだ。当時の鈴木貫太郎などの高官も暗殺の危機を感じていただろう。そうまでしないとやめられない。辺野古も同じで、やめようという、やめることを伝わるほどの人格・名声をもった政治家はいない。しかし普天間は辺野古に移せる当てはない。

さきほどの分断の話に戻れば、どちらも硬直しているかもしれない。ただし、意見は変わらないが、その日、その場で新鮮な切口を出して、アピールするようにしなければいけない。

辺野古に冷たい、無関心な人たちにどうやったら言葉が伝わるか、結局はやり方なのだろう。工夫しなければならない。

一歩離れてみると様々な失敗があり、統一教会の問題がでてきて自民党は統一教会の政治部じゃないかと見られる。事態は悪くなっているが、野党の側に迎え撃つ力はない。そのいっぽうで沖縄では玉城知事が再選を果たした。しかし、地方自治体の選挙では次々破れている。オール沖縄の旗色が悪い。経済問題をやっているのだが辺野古のことを出すとスルーされてしまう。

沖縄県の姿勢は沖縄県民の生活感・意識を支えてほしい。生活は苦しい、そのことにつけこんで日本政府は辺野古で妥協しろと、補助金を餌に金で…といってくる。

沖縄県民の所得は日本のなかで低いけれど誇りもある。沖縄の人は数字は気にしない、住んでいて気持ちのよさ、仲間や歌や踊りがある。そういうもので充足していた。

今沖縄人が経済を気にするのは、ある意味でヤマト的な価値観が浸透した。それは当然のこと、仕方ないが、かつての暮らしについては思い出しておきべきことだろう。

「台湾有事」が伝えられ日本政府が与那国島に基地をつくるとか体制をつくっている。外交と軍事は国の専管事項だから口を出すなという。しかし、同じ論法で沖縄戦がおきて、20万人が死んだ、それを沖縄は忘れていない。

基地は島を守りはしない。基地をつくれば敵の攻撃を誘う。それは沖縄の人もわかっている。地元で絶対反戦の町長を出すとか「ノー」という言葉を日本政府、あるいは中国に対して突きつけてほしい。

(文責編集部)

■参考
池澤夏樹さんら「あまくま琉球」立ち上げへ(「朝日新聞WEB]」 2022年8月9日)
https://www.asahi.com/articles/ASQ886SGBQ86TPOB005.html