歴史の闇に葬られそうな事実を掘り起こす―ドキュメント映画『抗い 記録作家 林えいだい』
「歴史の教訓に学ばない民族は、結局は自滅の道を歩むしかない」――林えいだい
試写を見たのは初夏のころで、その力作ぶりに感動した。林さんの本を読んではいても、お会いしたことはありません。映画ではあったが林さんの日常から垣間見せる言葉の数々に引き入れられていた。
あらすじをHPから拾います。
福岡県筑豊の旧産炭地には、今もアリラン峠と呼ばれる場所がある。そこは、かつて日本に徴用された朝鮮人たちが炭鉱に向かう時に歩いた道である。記録作家・林えいだいが、アリラン峠を歩く。林は筑豊に渦巻く様々な負の歴史を記録してきた。徹底した聞き取り調査をもとに、戦争の悲劇や朝鮮人強制労働問題など、権力によって歴史の闇に葬られそうな事実を掘り起こす。そこには反戦思想を貫いた父親の存在が背景にあった。
神主だった父親の寅治は民族差別に耐えかねて炭鉱から脱走した朝鮮人鉱夫を自宅に匿った。「国賊」、「非国民」とされた父親は警察の拷問が原因で命を落とした。その体験が林の反権力の原点となる。
82歳の林は、悪性の癌に侵されている。放射線や抗がん剤による治療を続けながら、今なお各地の現場を訪ね、闇に埋もれた史実を追い求める。抗がん剤の副作用で林の指は曲がってしまった。セロテープでペンを指に巻き付けながら懸命に記録を残す。権力に棄てられた民、忘れられた民の姿を記録していくことが自分の使命であると林は語る。2014年8月9日、福岡市の雑木林を林が訪れる。69年前の同じ8月9日、そこで一人の特攻隊員が日本軍に銃殺された。朝鮮半島の黄海道の出身の山本辰雄伍長(当時19歳)。国の命運をかけた重爆特攻機「さくら弾機」に放火したという罪が着せられていた。林はこれを民族差別による冤罪ではないかと思い、山本伍長の戦友や放火事件の目撃者のもとを訪ね、真相に迫ろうとする
試写を見終えた私に妙な記憶が蘇る。その記憶とは次のようなもの。
冒頭、えいだいさんの父親が特攻に捕えられ、拷問の末に釈放されるのだが、しかし皮膚には多少の傷はあるものの、目立った傷痕はない、というくだりがあり、拷問後釈放されたものの、数日後には死亡という。
もう50年も昔のこと。学生だった私はサークルの合宿を奥多摩の渓谷にある民宿に泊まったことがあった。その民宿の2-3軒隣に古道具屋があり、休憩時に立ち寄った際、その店主の説明を思い出したのだ。
老店主にとっては若い学生たちが訪れ、説明に熱がこもったのかも知れない。古道具類ばかりではなく、これは拷問に使ったものだと言って、傍らの黒い板を差し出した。羽子板ほどの板には釘の針が上を向いて並んでおり、板が黒いのは人の血なのだと説明する。私は、江戸時代の獄門・拷問なのか、と思ったが、ふと柱に掛かる。ほこりまみれた数本の布袋がを指差しこれは何か?と聞いた。
老店主はこの布袋には砂が入っているだと説明し、私たちに持たせてくれた。ずっしりと重い。長さは1メートルもあろうか。直径は3センチほど、いや5センチはあったのだろうか、今では記憶が定かではない。老店主の説明は続く。この砂袋は拷問で使うもので、これで頭や胸を殴っても、体には傷がつかないのだという。そして、外見を血だらけにせずに、数日後には必ず死ぬのだ、という説明だった。
林えいだいさんの拷問釈放後、数日で亡くなったのは、あるいはこの砂袋であったのではないか、そんなおぞましい50年も前の話を思い出したのだ。
さらに忘れなれない話も老店主から聞かされた。彼の座布団の後ろにある引き出しから、数枚のやや古びた写真を取り出し、それを自慢げに我々に見せる。その写真とは、拷問されている裸体の婦人。両手両足は縄で縛らて股は開かれ苦悶している。そして次には膣に無理やり挿入した棒状の新聞の写真が見せられた。女子学生は逃げ出したが、私たち男子は、驚き見入ってしまう。老店主は得意げに、この新聞に油を湿らすんだ、と言いながら次の写真を数枚見せる。記憶に残るのは、焼けただれた陰毛と黒くすすけた新聞の先端らしきものが股間にあり婦人はぐったりとして乱れた髪で横を向いた姿態あった。
ある団体で、国会図書館に蔵書されている慰安婦・慰安所の記述を探したことがあり、私もその調査に参加した。慰安所・慰安婦記述だけではなく、毒ガスやほかの残虐行為の記述も記録した。
その記述探しのなかで、人はこれほどにむごいことが出来るのかと思うほどの、兵士たちの行為がある。膣に手りゅう弾をねじ込み、苦悶する婦人、その亭主の自白をせまる場面など、性的拷問の記述にであって戸惑ったこともあった。
最後の「麻生…」桜の公園の下には犠牲者たちが眠っているとのコメントでしたが、あの麻生は、今の政権内の麻生炭鉱だと思いますが如何だろうか?(宿六)
*ドキュメンタリー映画 『抗い 記録作家 林えいだい』 公式ホームページ http://aragai-info.net
上映2017年2月上旬~