天皇の「生前退位の声明」は憲法違反である
3月30日に政府は、天皇陛下の退位や新天皇の即位に伴う儀式の在り方を検討する準備委員会の第3回会合を首相官邸で開き、各儀式の骨格を定めた基本方針を決定した。新天皇の即位の礼の中心儀式「即位礼正殿の儀」を2019年10月22日に国事行為として開催し、即位の礼後の最も重要な祭祀である「大嘗祭」を皇室行事として行うことなどが柱。(共同通信より)https://www.47news.jp/news/2211297.html
このことを踏まえ、あらためて2016年の天皇のビデオメッセージによる「お言葉」とはなんだったのか。天皇制という制度は憲法にどう位置づけられているのか考えてみたい。以下天皇の声明を中心として読み解く。
1.
日本国憲法は天皇(君主=国王の日本的呼び名、全世界・万物を支配する王のことを指す言葉)を、「この憲法の定める国事に関する行為のみを行(う)」、「国政に関する権能を有しない」(第四条第一項)存在としておりますから、天皇は、政治的活動を行う能力(政治的権能)を与えられておりません。
天皇が、日本国の「象徴」(見えない日本国がここにありますよと示す役割を果たす存在物)として(憲法第一条)、行うことのできる行為は、「国事に関する行為(国事行為)」(憲法第六条と第七条に定められている12項目の国家に関係する作業、注1.参照)のみです。
このことを踏まえれば、天皇が、「国事に関する行為」を改めることに関する声明、憲法や法律や条約等を改めることに関する声明、国会や内閣や裁判所や中央省庁や自治体の姿勢及び決定に関する声明、天皇の地位を改めることに関する声明などを発することは、許されません。それは、政治的権能を有しない天皇がなしえない政治的行為を行うことになるからです。
2016年8月8日に明仁天皇が発した「生前退位に関する声明」は、天皇の地位を改めることに関する声明、天皇の「生前退位」を否定している日本国憲法(第五条、天皇に代わって、天皇の「国事に関する行為」を行う機関である摂政の設置)や皇室典範という法律(第四条、死後退位の明記)を改めることに関する声明となりますから、明仁天皇のその行為は、天皇の政治的行為となります。従って、憲法違反となる行為です。
明仁天皇が、「生前退位についての声明」を公表することを求めたのは、国民を味方につけて、「生前退位」を認めない勢力を抑圧し、「生前退位」を認めない日本国憲法・皇室典範破り(憲法クーデター)を強行しようとするためであり、且つ、天皇が、日本国の中心点であることを国民に忘れさせないようにするためです。
宮内庁と安倍内閣が、「生前退位についての声明」の公表を許容したのは、天皇の政治的行為を解禁して、天皇を政治的行為を行う「元首」(対外的には、国家の代表、対内的には行政権の実質的・名目的な長)として活動させる端緒を開くためです。
2.
日本国憲法は、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ」(第四条第一項)と定めていますから、天皇の「公的行為」(国家機関としての行為)は、「国事に関する行為」(憲法第六条と第七条に定められている12項目の国家に関係する作業、注1.参照)のみです。
日本国憲法は、天皇(君主=国王の日本的呼び名、全世界・万物を支配する王のことを指す言葉)を、「国政に関する権能を有しない」(第四条一項)存在、つまり、政治的行為を行うことのできる政治的権能を有しない存在にして、天皇の「公的行為」を拡大しない態度を採っています。それ故、歴代の内閣が天皇に付与している「象徴としての公的行為」(天皇が象徴としての地位に基づいて、公的な立場で行う行為、注2・参照)を、「公的行為」とすることはできません。
日本国憲法の天皇は、見えない日本国の存在を体現する役割を果たす「日本国の象徴」(第一条)ですが、「象徴」天皇は、「国事に関する行為」とされる行為のみを行う天皇のことであって、「国事に関する行為」とされる行為と「象徴としての公的行為」とされる行為の両方を行う天皇は、大日本帝国の「元首」としての天皇が示してるように、あるいは、外国の「元首」としての君主が示しているように、「元首」(対外的には、国家の代表、対内的には行政権の実質的・名目的な長)としての天皇です。
歴代の内閣は、国家の強化のために、「元首」天皇を到達点として、天皇の国民統率力を高めようと、「象徴」天皇に、天皇と国民を結びつける機能を持つ憲法違反の「象徴としての公的行為」を付与しました。「国事に関する行為」においては、天皇と国民の関係は、ほぼ断絶してるからです。
なお、2012年4月27日に決定された自由民主党(自民党)の「日本国憲法改正草案」は、天皇を、「日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であ(る)」(第一条)としております。
政治的権能を有しない「象徴」天皇にとって、時の政権から相対的自立性を確保するためには、国民の支持が、決定的に重要となります。根っからの「象徴」天皇である明仁天皇は、そのことを熟知して、国民と結びつくことのできる憲法違反の「象徴としての公的行為」を積極的に行って、国民の支持の確保に傾注しています。
3.
2016年8月8日の「ビデオ・メッセージ」(「生前退位に関する声明」)で明らかになったことは、明仁天皇にとって、「国事に関する行為」(憲法第六条と第七条に定められている12項目の国家に関係する作業、注1.参照)とされる行為のみを行う天皇は、半人前の天皇であって、「国事に関する行為」とされる行為と「象徴としての公的行為」(天皇が象徴としての地位に基づいて、公的な立場で行う行為、注2・参照)とされる行為の両方の行為を行う天皇が、一人前の天皇である、ということです。
その両方の行為を行う一人前の天皇(君主=国王の日本的呼び名、全世界・万物を支配する王のことを指す言葉)とは、大日本帝国の「元首」としての天皇が示しているように、あるいは、外国の「元首」としての君主が示しているように、「元首」(対外的には、国家の代表、対内的には行政権の実質的・名目的な長)としての天皇のことです。
明仁天皇は、日本の君主として、「元首」としての天皇を復活させたいと願っています。だから、「ビデオ・メッセージ」において、「国事に関する行為」とされる行為と「象徴としての公的行為」とされる行為の両方の行為を行うことが天皇の「務め」だと明言しています。明仁天皇は、「元首」天皇を求める明白な改憲派です。
天皇家の当主としての明仁天皇が願っていることのもう一つは、父の裕仁天皇(死後、昭和天皇)が「第二次世界大戦」(1937年7月7日開始の「日中戦争」及び1941年12月8日開始の「太平洋戦争」)で遂行した侵略戦争の責任を負う戦犯(戦争犯罪者)天皇の汚名をそそぐことです。
それ故、明仁天皇は、憲法違反の「象徴としての公的行為」を最大限に活用して、裕仁天皇が行うことのできなかった「太平洋戦争」時の戦地への慰霊の旅を積極的に行って、あるいは、現代の戦地となりうる災害地(たとえば、2011年3月11日発生の東日本大震災の災害地、2016年4月14日発生の熊本地震災害の災害地など)の被災者への慰霊と慰問の旅を積極的に行って、平和を祈る「平和」天皇の面を強調し、自分の代で裕仁天皇を戦犯天皇から解放し、天皇家を潔白の家にしようとしております。
「生前退位」を実現するために必要となる日本国憲法・第五条(天皇に代わって、「天皇の国事に関する行為」を行う機関である摂政の設置)と皇室典範・第四条(死後退位の明記)破りは、明仁天皇・宮内庁が先導し、安倍内閣が追随する形となりました。それは、「生前退位」を、政治的意思を表明できない「象徴」天皇から、政治的意思を表明する「元首」天皇への転換点にするための策略であって、明仁天皇天皇・宮内庁と安倍内閣との間に、基本的な対立はありません。明仁天皇も、宮内庁も、安倍内閣も、「元首」天皇を目指しております。(M)
注
1.「国事行為に関する行為」の12項は、次の通りです。
(1)国会の指名に基づいて,内閣総理大臣を任命すること。(憲法第六条一項)
(2)内閣の指名に基づいて,最高裁判所の長たる裁判官を任命すること。(憲法第六条二項)
(3)憲法改正,法律,政令及び条約を公布すること。(憲法第七条第一号)
(4)国会を召集すること。(憲法第七条第二号)
(5)衆議院を解散すること。(憲法第七条第三号)
(6)国会議員の総選挙の施行を公示すること。(憲法第七条第四号)
(7)国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。(憲法第七条第五号)
(8)大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を認証すること。(憲法第七条第六号)
(9)栄典を授与すること。(憲法第七条第七号)
(10)批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。(憲法第七条第八号)
(11)外国の大使及び公使を接受すること。(憲法第七条第九号)
(12)儀式を行うこと。(憲法第七条第十号)2.「象徴としての公的行為」とされているものの例は、次の通りです。
外国要人との会見、外国公式訪問、国会開会式への出席とその時の言葉、全国植樹祭・国民体育大会・全国豊かな海つくり大会への出席、全国戦没者追悼式への出席、新年一般参賀への出席、被災地見舞い、福祉施設慰問、講書始、歌会始など。
参考:
天皇の「生前退位の声明」(ロイターのウェブサイト)
https://jp.reuters.com/article/japan-emperor-statement-idJPKCN10J0KX