政府は被爆者を分断するな!すべての被爆体験者を救済せよ!

(朝日新聞デジタル 2021年7月23日より)https://www.asahi.com/articles/ASP7R6G4JP7RPITB00H.html

広島への原爆投下ののちに降った「黒い雨」を浴びた人々がいた。その住民たち84人が国の援護を受けられないことは違法として、2015年11月4日、被爆者健康手帳の交付を求め提訴した。これを「黒い雨訴訟」という。

2020年7月29日、広島地裁では「黒い雨訴訟」で原告全面勝利の判決が出た。しかし、原告らの願いもむなしく、広島市・広島県は、国に促されて広島高等裁判所に控訴した。そして広島高等裁判所は2021年7月14日に、広島市長及び広島県知事に対し、再度「黒い雨訴訟」原告への被爆者健康手帳の交付を義務付けるという勝利判決を出した。

原爆投下から76年、地裁提訴からでもすでに6年経っていて、現在平均年齢83歳の原告にとって、これまでの歳月は苦難の道であったろう。原告団の中でもすでに18名の方々がなくなっている。

菅義偉首相は広島高裁での敗訴から約二週間後、「黒い雨訴訟」における国の上告断念を表明し(7月26日)、29日に原告全員を被爆者と認める判決が確定した。今後、原告全員に被爆者健康手帳が交付される。この手帳によって医療費は無料となる。

広島地裁の上告断念後に菅首相は長崎の8月9日「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」のあいさつで「原爆症の認定について、できる限り迅速な審査を行うよう努める」と述べたが、広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」をめぐる訴訟の上告を見送ったことには言及しなかった。

さらに式典後に被爆者団体と面会し、兵器禁止条約への署名・批准や「被爆体験者」の救済などを求める要望書を手渡されたにも関わらず、その後の記者会見では長崎の被爆体験者救済について「長崎では訴訟が継続中。その行方を注視する」とだけ述べた。これについては、さすがに被爆者から「体験者を差別するのか。国民を救済する意識がない」と “ゼロ回答”に怒りと落胆の声があがった。

被爆体験者救済 募る焦り “ゼロ回答”に怒りと落胆(長崎新聞 2021年8月11日付)
https://nordot.app/797646221061013504?c=39546741839462401

長崎の被爆体験者*について、国が定めた被爆地域の外で原爆に遭った被爆体験者が7619人(2021年3月)いるという。被爆者健康手帳は交付されず、医療費が原則無料の被爆者とは支援内容に差がある。彼らは「内部被曝ひばく」による症状が出ていると訴えており、長崎での訴訟弁護団の三宅敬英弁護士は「被爆体験者も救済されるべきだ」と主張している。(読売新聞オンライン 8月3日)
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20210803-OYTNT50037/

菅首相の政治判断については、広島に限るのだが「黒い雨訴訟」原告・弁護団の長年のたたかいがあり、控訴断念の署名が集まるなど、周囲の世論や地域の運動などが政府を動かした、と率直に喜びたい。

問題なのは菅政権がこれまでの処置を反省することなく「選挙目当て」の様な場当たり的で対応で矛盾していることだ。長崎の被爆体験者保護を無視したことで、せっかくの広島についての判断が台無しとなってしまった。広島・長崎の被爆体験を分断し差別することは許されない。

広島の判決についても「健康への影響を認めた判決」への難癖(「容認できない」としている)つけている、それは「厚労省に設けた有識者検討会」の存在とつながっている。(朝日新聞デジタル 7月28日付)
https://www.asahi.com/articles/DA3S14990628.html?iref=pc_rensai_long_16_article

菅首相は「長崎では訴訟が継続中。その行方を注視する」と

菅首相は「長崎では訴訟が継続中。その行方を注視する」とだけ述べた(TBSnews 2021/08/09 https://www.youtube.com/watch?v=BN0XYkcIu7A より)


健康への影響については被爆当時のデータ収集が貧弱で科学的知見の限界や実証性そのものの疑問も指摘されていたし、放射能被害については幅広く認める見識が求められている。菅談話には「合理的根拠」を認めたうえで否定する、という上告への未練がましい表現があり、「納得いかない点もある」とこの期に及んで被爆者を逆なでするような言葉を吐いている。具体的に以下のように引用しておこう。

とりわけ、「黒い雨」や飲食物の摂取による内部被曝の健康影響を、科学的な線量推計によらず、広く認めるべきとした点については、これまでの被爆者援護制度の考え方と相容れないものであり、政府としては容認できるものではありません。(内閣総理大臣談話 2021年7月27日 閣議決定)

政府が設定した被爆者や被爆体験者については、別け隔てなく救済すべきだ。広島と長崎の対応が食い違っているのは、援護する対象を「被爆者援護制度の考え方」の合理的根拠としているが、その根拠を変えてゆく必要があるだろう。菅政権は、一刻も早く全ての被爆者の救済を、そして被爆者を生み出すもとを断つためにも、核兵器禁止条約を批准せよ。
(本田一美)

*被爆体験者
長崎原爆投下時に、爆心地から半径12キロメートル圏内にいながら、国が定めた被爆地域(爆心地から南北に約12キロメートル圏内、東西に約7キロメートル圏内の楕円(だえん)形状)外にいた人たち。健康診断の結果、被爆体験による特定精神疾患にかかっているとされた人は、被爆体験者精神医療受給者証を交付され、精神疾患とその合併症に限って医療費(自己負担分)を助成される。しかし被爆地域の外にいたため、原則として被爆者とは認定されず、被爆者健康手帳は交付されない。被爆体験者は「放射線による直接的な身体への健康被害はない」とされており、被爆者のような医療費の原則無料措置や健康管理手当支給などの援護を受けられない。
(「日本百科全書」小学館より抜粋)