阿片・関東軍・匪賊…マンガが描く満州の闇

『満州アヘンスクワッド』(原作:門馬司 漫画:鹿子)ヤンマガWEBより

電車内でスマホでマンガを見る人がいるのを見たのはずいぶん前だが、出版科学研究所の調べによると2020年のコミック市場における電子の占有率は55.8%になったという(HON.jp 2021.2.26)。電子端末の普及がすぐに読めるデジタルのマンガの増加につながっているのはまちがいない。筆者自身はもともと定期的にマンガを読むことはないし、特に積極的に読むこともないのだが、昔はけっこうマニアックなマンガを探して読んだ時もあり、マンガ表現には興味・関心を払ってきた。そんなわけで主題が時期にかなっているのと刺激的な内容で一部で話題になったマンガを紹介したい。

満州アヘンスクワッド』(原作:門馬司 漫画:鹿子)というマンガである。当初は「コミックDAYS」という講談社のマンガアプリ・ウェブサイトでデジタル配信されていたが、2021年9月16日から雑誌「ヤングマガジン」に移籍した。

90年前の2日後に柳条湖事件が勃発し満州事変となるという時期も奇遇だが、人気がでたため雑誌に移るということだろう。紙媒体からウェブへ移行するのが普通となっている昨今、めでたいことではある。

物語は1937年の満州。関東軍の兵士として満州にやってきた日方勇、18歳。これが主人公なのだが最初からびびっていてひ弱な感じで心もとない、中国人の少年から銃弾を浴び右目の視力を失ってしまう。軍の食糧を作る満蒙農業義勇軍に回され、上官に虐げられる日々を送るも、ある日農場の片隅でアヘンの原料であるケシが栽培されていることに気づく。病気の母を救うためアヘンの密造に手を染める勇だったが…。

話が進むと意外にも大胆になってくる勇だが、そこに中国の秘密結社「青幇」の首領である杜月笙の娘という麗華が絡んでくる。実際に中国全土のアヘン流通を支配していたらしい、が娘の存在は不明だ。

満州が舞台となり、そこに白系ロシア人のマフィアとソ連系のロシア人と関東軍、特務機関と青幇がアヘンや満州における勢力をめぐって争いを繰り広げるのだ。ハルビン市の阿片窟として有名な大観園も登場する。

このマンガでのアヘンの描写がすごい、阿片窟でアヘン患者へ上質のアヘンを吸引させる、あまりの心地よさで顔も歪むのだが、そこがマンガ表現らしいぶっ飛んだものとなる。これなどはアヘンにまつわる資料でもなかなかイメージできないものだが、その辺りを旨く見せてくれる。

マンガは現在のところ5巻まで発売され、当然ながら歴史的事実を借りながらもフィクションであり、飛躍のあるアクション劇画なのだが、クライムストーリーとして今後どう展開するのか愉しみでもある。

アヘンによる快楽についても紹介しておく。「アヘン常用者の性交時間を調査したところ、最高で17時間も陶酔感にひたっていたという(中略)結果、男は勢力を使い果たして腹上死する」(佐野眞一『阿片王』新潮文庫 2005年)

このようなアヘンを日本は関東軍の資金源として計画・立案し蒙彊政権が生産・供給し、実施していた。それゆえ東京裁判は、国際アヘン条約に違反して遂行された日本の政策を「平和に対する罪」として「荒木貞夫以下二八人の被告全員を追訴し、有罪の判決を下したのである」(江口圭一『日中アヘン戦争』岩波新書 1988年)

また日本占領下の華北ではアヘンから精製されたヘロインなどの麻薬も密造・取引され、日本も隠然と関与していた(江口圭一 前掲書)。

アヘンや阿片窟は過去のものだと思いがちだが、今問題になっている麻薬はアヘンと同じケシから作られる。元となるケシ栽培は手間がかからず、水が少なくて済む上、ほかの作物よりも儲かる。それで国家権力の手が届かない地域で育てられてきた。

たとえば東南アジアの「黄金の三角地帯」とよばれる地域でそこの軍閥が資金源にしてきた。ベトナム戦争では、メオ族を支援するためにアメリカ中央情報局 (CIA) が市場へのアヘン運搬を支援し、これが高純度のヘロインとなり南ベトナム共和国駐留アメリカ兵の手に渡った。今でも米国でのヘロイン中毒の被害は大きい。1996年のイギリス映画『トレインスポッティング』では、ヘロインの売人としての主人公が描かれた。まさにリアルな話なのだ。

また現在でもアフガンの農地では大きな産業となっている。国連薬物犯罪事務所(UNODC) によると、アフガニスタンは世界最大のアヘン産地。世界で収穫されるアヘンの8割以上がアフガニスタンで生産されている。
https://www.bbc.com/japanese/58647223

そしてアフガニスタン国民の約100万人(15~64歳)が、アヘンやヘロインの中毒者だという。
https://www.afpbb.com/articles/-/2737037

これらの話を聞くと、まさにアヘン(麻薬)の話は過去のものではなく、今日の問題としても考えさせる。それを頭に入れてマンガを読みすすめることにしよう。

(本田一美)

アフガン農家のけし栽培 政府は貧困が背景と
https://www.bbc.com/japanese/video-36394896

ヤンマガweb『満州アヘンスクワッド』
https://yanmaga.jp/