国際政治なかの沖縄と米軍基地を考える

普天間基地。米軍基地と住宅が間近に迫る危険な状況

普天間基地。米軍基地と住宅が間近に迫る危険な状況

「沖縄とともに―慰霊の日を迎えて」と題して2022年6月25日にZOOMによるオンラインによる沖縄シンポジウムが東京弁護士会の主催で開かれた。ここではそのシンポジウムの第2部である「沖縄と抑止力」として柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)の講演を紹介する。

第2部「沖縄と抑止力」
柳澤協二氏(国際地政学研究所理事長)

米軍基地問題に関する万国津梁会議(2021年3月)では「在沖米軍基地の整理・縮小についての提言」を玉城デニー沖縄県知事に提出した。これは沖縄県のHPでも見られる。
https://www.pref.okinawa.lg.jp/site/chijiko/kichitai/bankokushinryou1.html

そこでは、沖縄への過重な基地負担が日米同盟の安定を阻害するとの基本認識に立ち、主に以下の三点を提言している。

① 辺野古新基地計画は、軟弱地盤の存在によって工期と費用が大幅に増大し、技術的にも財政的にも完成が困難である。新基地建設は即時中止し、本来の政策目的である普天間飛行場の危険性除去のため、同飛行場の運用停止を急ぐべきであること。

② 米国の中国に対する軍事的優位が喪失して沖縄に所在する基地の脆弱性が認識されるなかで、海兵隊を含む米軍の態勢見直しが始まっている。沖縄の米軍についても、日本本土やアジア太平洋各地に分散することで基地負担の軽減を図るべきであること。

③ アジア太平洋地域の安全保障にとって、軍事的抑止とともに緊張緩和と信頼醸成が不可欠である。沖縄を、その地理的・歴史的特性を生かし、地域協力ネットワークのハブとすべきであること。

より具体的には以下のようである。

1.辺野古は唯一ではなく「ありえない」選択肢
2.普天間の運用は拡大している
3.米中対立の中でこそ、沖縄の声を発信すべき
4.米軍の新構想…大規模基地への集中から分散へ
5.抑止力で思考停止してはいけない
6.戦略的ミドル・パワー外交の重要性
7.軍事のハブから交流のハブへ
8.国との協定による自治体の取り組み

1.辺野古は唯一ではなく「ありえない」選択肢である

技術的・財政的な疑問がある。大浦湾の軟弱地盤という自然環境による、工事費・工事期間の増大・長期化の問題である。普天間基地そのものも危険であり、無くすしかない。だが選択が辺野古移転しかなく対話が拒否・分断されている。

2.普天間の運用は、むしろ拡大している

外来機の使用が増大している。米軍の作戦構想で新たな訓練が本土でも行われている。日本の政府は米軍の運用・訓練を無批判に受け入れている。沖縄への配慮が欠けており、さらに全国の問題へとつながっている。

3.米中対立と沖縄

米中対立には覇権国の不安と台頭国の不満がある。バイデン政権は同盟国に多くを求める、日本には過分な負担を要求する。沖縄を手放さない一方、同盟国の意見も聞く必要がある。沖縄の声を反映させるべきだ。

4.米軍の新構想…大規模基地への集中から分散へ

中国ミサイルから安全な場所はない。遠距離反撃(ASB)からミサイル射程内での作戦(ADO)へとミサイル配備・グアムを守るミサイル防衛の集中から分散となっている。沖縄を拠点にすればミサイルの標的になってしまう。

5.抑止力で思考停止してはいけない

抑止には攻撃を我慢させる条件があり、反撃する意志と攻撃を我慢させる特性を示す必要がある。対話抜きの抑止は不安定である。たとえば尖閣列島は、力だけでは守れない。水上警察や海上保安庁で対応するだろう。

6.戦略的ミドル・パワー外交の重要性

戦後日本は日米安保と力によらない多角的外交で成功してきた。世代交代により
「米国による抑止」の成功体験だけ継承
して過去の戦争肯定にアイデンティティ
を求めて沖縄の声を無視するようになった。QUAD(日米豪印)も中国封じ込めから多角的協力と多国間の枠組みを追求するものとして外交座標軸が転換するものとなっている。

7.軍事のハブから交流のハブへ

沖縄の特性として地理的特性があり、太平洋から大陸・アジアへのアクセスポイントである。米軍アジア戦略の拠点から物流・観光の拠点へと転換させよう。また歴史的には琉球王国・沖縄戦・米国支配・観光立県と複雑多岐に渡る。米中対立のなか地域の信頼醸成が急務となる。ヒロシマ・ナガサキに並ぶ象徴性を生かした発信と交流をつくろう。

8.国との協定による自治体の取り組み

米軍のローテーション・訓練分散を日本政府に求め、日米地位協定を改定し米軍の訓練など(低空飛行・夜間射撃・場外のコロナ感染)を規制し、地方防衛局との協定で、訓練規制・情報開示地元市町村に加え、県の参加で住民を守る自治体の役割を担わせよう。

終わりに…沖縄の未来を作るために

国土の0.6%に米軍専用施設の70%という現実を直視する。玉城知事の「50%目標」は沖縄基地の7割は海兵隊なので半分返せば50%になる。海外移転などは可能だ。戦争・米軍統治を知らない世代が増えてきた。諦めるか、希望を持ち続けるか次世代の問題でもある。

米中対立の中の沖縄

台湾有事では軍事バランス、ひとつの中国という政治合意、経済分離が絡み合い、双方の挑発により不信・敵意により衝突が発生し、戦争へとつながる危険性がある。そこに日本・沖縄も巻き込まれる。ミサイル基地がつくられてそれが標的となる。日本では被害想定がされていない。

そして一番の問題として国の決定は覆すことがない、ということだ。今の日本の官僚制では政治的決着として事案が確定されている問題もある。

(文責編集部)


沖縄の米軍基地2005年(「沖縄戦の記憶・分館」より)

https://hc6.seikyou.ne.jp/home/okisennokioku-bunkan/okinawasendetakan/oknawanobeigunkiti.htm