参議院選挙を総括する―岸田政権による改憲・9条破壊策動をとめよう!

危機感のなか多数の市民が駆けつけた

危機感のなか多数の市民が駆けつけた

7月30日(土)北千住マルイ10階シアター1010アトリエにおいて渡辺治氏講演会「改憲にいかに立ち向かうか?ー参院選後の私たちのたたかいについてー」が開かれた。選挙結果は与党や維新の会など改憲勢力が優勢な国会配置となり、危機感を抱いた大勢の人々が参加した。主催は千住九条の会。

「改憲にいかに立ち向かうのか?」―参議院選挙後の私たちのたたかいについて
渡辺治さん
(一橋大学名誉教授/九条の会事務局)

■岸田自民党は参議院選挙で何をねらったのか?

憲法9条は自衛隊の活動に大きな制約がある。それを安倍首相は打破しようとした。2014年に政府は解釈を変えた。2015年には安保法制で集団的自衛権を容認した。続いて明文改憲に踏み込んだ(9条2項に自衛隊を明記するなど自民党改憲案4項目)が途中で挫折した。

その後は新型コロナ禍のなか安倍政権から菅政権となり、米国もトランプ大統領のもとで対テロ戦争から米中軍事対決路線へと戦略を転換した。それに伴い日米軍事同盟の強化が謳われ、日本が対中軍事包囲網の前線と位置づけられた。

バイデン政権となり、軍事同盟網の要となる「日米共同声明」(2021年4月16日)で「自由で開かれたインド太平洋」という地域の拡大を示した。中国脅威論を詳細に表明し、台湾有事への介入を確認(「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」)し、共同作戦体制の強化と辺野古新基地建設と馬毛島基地建設などの防衛力強化をすすめ「敵基地攻撃能力」保有を公言した。

しかし菅首相の不人気で岸田政権へと引き継がれる。衆議院で改憲勢力の3分の2を獲得し、国民民主党の変貌で有利な状況となる。

2022年1月、日米安全保障委員会(2+2)の共同発表で、(1)中国の脅威に対して共同で抑止・対処へ(2)日本の防衛力の「抜本的強化」(3)日米同盟の役割分担の見直し(専守防衛の見直し)に踏み込んだ。その後ロシアのウクライナ侵攻があり、軍事費GDP2%以上を目指すという、自民党の「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」(4月26日)がなされる。

地域・草の根と国会を車の両輪として、改憲の策動を強める(通常国会では衆議院憲法審査会16回)。そして参議院選挙に向けて安保・防衛を前面にした自民党の政策パンフを配布し、大軍拡を主張した。

■参院選はどうしてあのような結果となったのか?

国政選挙における主要政党の得票率の推移(集会資料より)

国政選挙における主要政党の得票率の推移(集会資料より)

参議院選挙は自民党が55から63と議席が増え、得票率は微減となった。公明、維新、国民民主党と改憲4党で参議院の3分の2を大幅に上回る(177議席)。他方、立憲民主党は23から17議席、日本共産党は6から4議席で立憲4党(れいわ3、社民1)で56議席となる。

この要因として、(1)安倍政権以降の財政出動政策が、コロナ禍でも「仕方のない支持」を継続した。自民党は1人区での勝利による議席確保だが、それは野党の共闘が成立しなかったこともある。アベノミクスの財政出動継続が人々の「仕方のない支持」の選択をした。

(2)野党共闘が限定的であったため自公政権に代わる選択肢が示されなかった。2021年の衆議院選後の共闘批判キャンペーン、立憲民主党の指導部も交代し、路線の見直しが行なわれた。また連合の共闘批判の指導も強まった。1人区の11の選挙調整しかできなかった。また共闘も不十分だった。

共闘が不調となり、立憲も自公政権に不満な市民の選択肢とならなかった。立憲の得票率下落については、共闘路線の見直しと防衛力強化に言及したことだ。これで複数区でも減衰した(北海道・東京・神奈川)。

共産党は共闘のなかでの役割期待が薄れた。共闘が不調になったことで支持者や活動家が意気を喪失し、それが響いた。

選挙後の共同通信の世論調査(7月12日)では立憲4党の支持者の6割以上が野党の一本化を望んでいる(全体では47.2%)。

そしてロシアのウクライナ侵略に乗じた自民・維新などの安保・防衛強化論に一致して立ち向かえなかった。自民党は政策の重点を安保・防衛を前面に据えて以前とは一変させた。外交・安保政策が選択の上位になった。例えば読売新聞の出口調査(7月11日)では外交・安保が17%となった。

立憲の野党は足並みは揃わない。立憲民主党は「着実な安全保障」を掲げていた。共産党・社民党だけが軍事力強化に反対したが、対立軸とはならなかった。

■岸田政権の改憲・9条破壊策動にいかに立ち向かうか?

国民は改憲・9条改憲には同意していないし、迷っている。確かに改憲賛成が増えているが、拮抗している。また、改憲賛成は増えても9条改憲については反対が多数である(但し9条への自衛隊明記については賛成が多い)。防衛費の増額については必ずしも賛成は多くない。選挙後の共同通信の世論調査では「憲法改正は急ぐ必要はない」が多数であった(58.4%)。

改憲項目についても一致していない。自衛隊明記や緊急事態条項は自民党と維新のみである。改憲発議を市民の大運動で阻むことは可能である。

■軍事力・軍事同盟ではアジアと日本の平和は実現できない。

日米軍事同盟強化では米中対決がエスカレートする。中国・ロシアが軍拡をする口実となる。現在は軍事同盟では国際的な共同行動がとれない。プーチンは国際的な制裁を受けないとの見込みでウクライナに侵攻した。

9条に基づく平和の実現は可能だ。戦後日本77年にわたる平和ができたのは憲法の制約で領土紛争に自衛隊が出動できず、集団的自衛権も発動できなかったからだ。

侵略や戦争はある日突然起こるものではない。長い政治的対立の帰結としてある。
今まで尖閣などの紛争を武力によらず解決する約束は、日中平和条約等でしてきた。自公政権がこれを壊そうとしている。

現在のような軍事対決の世界をそのままのにしていては9条は実現できない。そのため世界とアジアの軍事対決の亢進にストップをさせることだ。核兵器禁止条約の批准、核軍縮、通常の軍備軍縮の締結をさせよう。

紛争解決に武力を使わないルールを適用させよう。北東アジアの共同体を中国・米国を含めてつくるということ。

いまの自公政権では平和の先導はできない。市民による積極的な運動が必要だ。大事なことは大軍拡と明文改憲との両方に立ち向かうことだ。

「反撃能力」称する攻撃的兵器保有を許さない、防衛費の大幅増額予算を許さない市民の大行動を。9条への自衛隊明記が単なる現状の追認ではなく、「侵略戦争をする軍隊」となる自衛隊を合憲とする企みだということを訴える。憲法審査会での議論の監視・批判と立憲の野党への励ましが重要だ。

改憲は阻止できる。私たちの行動に確信をもち、改憲阻止の共同と市民と野党の共闘を強化して、立憲の野党の転換と共闘を再構築し、9条の会の原点に立ち戻る時だろう。
(文責編集部)

講演会チラシ

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