関東大震災時の朝鮮人等虐殺を表現することの懸念!
10月28日、厚生労働省にて「東京都人権部による飯山由貴《In-Mates》検閲事件」の記者会見が開かれた。登壇者は、飯山由貴(アーティスト)、FUNI(ラッパー/詩人)、外村大(東京大学教員)。司会は小田原のどか(彫刻家・評論家)が務めた。
これは、東京都人権啓発センターが指定管理者を務める施設である東京都人権プラザの主催事業として、11月30日まで飯山由貴の企画展「あなたの本当の家を探しにいく」が開催されて、そこで映像作品《In-Mates》(2021)の上映とトークが企画されていた。しかし、東京都総務局人権部により本作の上映が禁止された。これに対して飯山らは検閲であるとして記者会見にて明らかにした。
具体的には、東京都人権部より、人権プラザの指定管理者である人権啓発センター普及啓発課宛てに送られた内部メールで、上映した場合の配慮の必要性や懸念点があげられていた。
都の人権部は懸念点の1つ目のとして、映像作品のなかで、「関東大震災での朝鮮人大虐殺について、インタビュー内で「日本人が朝鮮人を殺したのは事実」と言っています。これに対して都ではこの歴史認識について言及をしていません」と書いている。これに加え、関東大震災の朝鮮人追悼式典に都知事が今年も追悼文を送らなかったという内容の朝日新聞の記事を参照したうえで、「都知事がこうした立場をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を「事実」と発言する動画を使用する事に懸念があります」との認識を示した。
2点目は、作品内のFUNIによるラップの歌詞について、「見方によっては「ヘイトスピーチ」と捉えかねられません。ご自身が在日朝鮮人ということや、動画全体を視聴すればそうではないということがわかりますが、参加者の受け取り方によっては《本邦外出身者に対する差別を「煽動」する》行為になるのではないかと思います。都でヘイトスピーチ対策をしているなかで、想像の「歌」であったとしても、懸念があります」。
3点目は、「動画全体を視聴した感想ですが、「在日朝鮮人は日本で生きづらい」という面が強調されており、それが歴史観、民族の問題、日本の問題などと連想してしまうところがあります。参加者がこういった点について嫌悪感を抱かないような配慮が必要かと思います」という。
その後は相互の関係者による話し合いが持たれたが、問題は解決せず文書による上映中止の理由の書面の提出を要求しているが実現していないという。
要望として以下の対処を東京都に求めるという。
・《In-Mates》の上映と出演者によるトークイベントを改めて実施すること。
・小池百合子都知事は、これまでの自ららの行動が行政職員による偏見と差別行為の煽動となっていることを自覚し、本事件が発生するに至った経緯をあらためて調査し、公に説明すること。また、関東大災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼式の送付を再開すること。
まず飯山由貴の作品《In-Mates》だが、これは国際交流基金が主催するオンライン展覧会「距離をめぐる11の物語:日本の現代美術」(会期:2021年3月30日~5月5日)に際して制作されたもので、基金側から一方的に展示中止にされたものであるということ。その時にも東京大学で非公開で今回と同様にシンポジウムと《In-Mates》上映会が開催されたという。
http://getsuyosha.jp/20220711-2/
1945年に空襲で焼失した精神病院・王子脳病院(東京)の入院患者の診療録に基づくドキュメンタリー調の映像作品。関東大震災時の朝鮮人等の虐殺事件を扱うもので、同院診療録に記録された2人の朝鮮人患者の実際のやりとりに基づき、ラッパー・詩人で在日コリアン2.5世であるFUNIが、言葉とパフォーマンスによって彼らの葛藤を現代にあらわそうと試みる姿が記録されているという。
(美術手帖WEB)
https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/26233
この「東京都人権部による飯山由貴《In-Mates》検閲事件」問題については11月2日に《In-Mates》上映会+シンポジウム「〈人権〉と展示の政治学:現代アートと精神障害、検閲、レイシズムの現在」がリアルとオンラインで開催された。主催は東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科。筆者は、11月2日当日にオンラインで視聴し、シンポジウムを聞いた(オンラインでは限定されたが、会場では継続して話し合われた)。
http://ga.geidai.ac.jp/2022/10/23/in_mates/
[第1部]《In-Mates》上映+飯山由貴作品紹介
[第2部]シンポジウム「〈人権〉と展示の政治学:現代アートと精神障害、検閲、レイシズムの現在」ゲスト:
飯山由貴(アーティスト)
卯城竜太(アーティスト)
小田原のどか(彫刻家、評論家)
楠本智郎(つなぎ美術館学芸員)
中村史子(愛知県美術館学芸員)
山本浩貴(アーティスト、文化研究)司会:清水知子(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科准教授)
シンポジウムでは、2人の美術館学芸員から検閲へとつながる過程とそれにまつわる苦悩、回避する術などが語られた。
アーティストの卯城竜太(Chim↑Pom)氏からはこれまでの表現活動のなかで幾度も検閲や障害の憂き目に会ったこと、体験としての検閲の回避・対処を具体的に語った。総じて検閲を受けても対処の仕方が分からない、アーティストの側に問題が委ねられてしまうことなどが語られた。
映像作品《In-Mates》が在日朝鮮人の歴史と現代を扱っている以上、政治問題化しかねない、という認識は今の日本の状況をみれば故なきことではないが、いっぽう「検閲は、これをしてはならない。」という憲法第21条2項に定められているものがあり、行政は当然ながら憲法の立場にたたなければならないものだろう。
(本田一美)