元少年死刑囚永山則夫、そして山上容疑者
東京・赤羽に「青猫書房」という素敵な本屋がある。赤羽というと大衆酒場と庶民の街というイメージだが、そんな住宅街のなかにこどもの本や絵本を揃えた本屋が現れる…と偉そうに書いたが、実はたまたま「第7回 永山則夫が残したもの」という展示を知って、この場所へ出向いたのであった。
この展示は第7回というように、これまで何度もここで開かれているようだ(永山則夫死刑執行20年にあたる2017年など)。2022年は10月12日から11月7日まで開催され、併せて太田昌国、インベカヲリ各氏が登場するトークイベントもあった。展示会は永山元死刑囚の元支援者で遺品を保管している「いのちのギャラリー」の主催。
おしゃれな外観の木製ドアを開けて入り奥に進むと、10畳くらいの小部屋がありカフェとしても利用されてるようだ。中庭を望む大きな窓があり、壁面には関連の資料が展示されていた。中央のテーブルには永山則夫の著作や死刑廃止関係の書籍が展示・販売されている。
展示は書簡がメインで、手紙やハガキなどだ。最初の著作である『無知の涙』の頃交流した赤瀬川原平(装丁を担当)、瀬戸内寂聴、鎌田慧、山本美智代、井口時男各氏と永山氏とのやりとりをした人々の痕跡だ。
また、永山則夫の生まれ育った町の風景を写真家のインベカヲリ★が撮影した写真も展示されていた。
永山元死刑囚は網走で生まれ、極貧で家族など周囲の虐待のなかで育っている。青森から上京し、就職・失職を繰り返し、横須賀の米軍基地から奪ったピストルで4人を射殺した。逮捕後は拘置所で学び直し「獄中ノート」を書き残した。
永山が「しかし、どうせ死刑になるという観念があれ等の事件を犯してしまった(中略)「死刑になるという観念」は凶悪犯を尚更、高度な凶悪犯行に走らせてしまう、自暴自棄というのであろう」(250P『無知の涙』永山則夫 河出文庫 1990年)と書くのは正直な表明だろう。
ちょうどこの展示の前に安倍国葬があり、また、安倍元首相射殺事件の山上容疑者をモデルとした足立正生監督の『REVOLUTION+1』という映画の話があった。この映画は安倍国葬前に急遽未完成で上映されて、その後は追加製作をされて完全なかたちで上映されるという。たまたまではあるが、やはり、山上容疑者のことが想起される。
足立正生は永山則夫を取り上げた『略称連続射殺魔』(1969年)があり、当然ながら「射殺する人間」というものを意識しないわけにはいかない。ともに家庭・親族の複雑な環境があり、経済的にも困窮していた。そして永山則夫は1968年6月に自衛隊受験をしている。保護観察中だったので不合格となったが、山上容疑者は2002年から3年ほど海上自衛隊へ所属していた。奇妙な符合ではある。
永山則夫は集団就職で上京したが、集団就職という中卒の労働力を移動するシステムは、ちょうど永山の上京前年の1964年にピークを迎えて、後は減り続けた。「金の卵」と呼ばれた単純労働力の需要が減少していく、産業構造が変化していった時代だ。<経済の急成長は、一方で社会に格差を生じさせ、他方、開花した種々の欲望に応じた「夢」を、時の前方に錯綜させた。(中略)永山にしてみれば、こうした「夢」の錯綜は、おのれのみじめな現実を、より一層際立たせるものでしかなかった。>(『涙の射殺魔・永山則夫』朝倉喬司 新風舎 2007年)と書いてあるように永山則夫の場合は時代の制約というか、高度経済成長期の徒花のような気がする。
いっぽう山上容疑者はいわゆる「宗教2世」であり、低成長というか時代は下りで、閉塞感やある種の可能性が封じ込られていくような状況でもあった。ただ皆と同様になんとか上昇するようもがいていたのだろう。そのうえで自分をその境遇に追いやった統一協会とそれと結託していた自民党に対して、山上容疑者は落とし前をつけたのだろう。霊感商法や信者の銭を貪り食うってきたこと。そしてそれを放置してきた(むしろ加担していたのだ)罪は重い。
彼らは残念ながら希望を見出すような状態にならなかった。被害・苦境に立たされた人間の逆襲でもあるわけだが、絶望のなかにある人間が、そのまま奈落に突き落とされることは、日本社会では犯罪に走ったり、あるいはヤクザになるしかないのか。しかし、今後は世間となんとかつながりをもち、社会に復帰できるシステムが多元的に求められるだろう。
会場で日本国内の死刑囚たちの絵画作品を集めた『極限芸術~死刑囚は描く~』(クシノテラス 2016年)を買い求めた。まさに極限的な表現の数々に圧倒される。また、例年「死刑囚表現展」が死刑廃止国際条約の批准を求める「フォーラム90」主催で開催されていることも知った。これから死刑囚と死刑制度について考えてみたい。
(本田一美)
死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90
http://forum90.jp
こどもの本「青猫書房」
住所:東京都北区赤羽2-28-8
TEL:03-3901-4080
営業時間:夏季4~9月11:00~19:00、冬季10~3月11:00~18:00
定休日:火曜
http://aoneko-shobou.jp/
日本が誇る稀代のシュールレアリスト・足立正生監督の最新作『REVOLUTION+1』…
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