大川原化工機えん罪事件が示す 国家秘密拡大の「経済安保版・秘密保護法」

パワーポイントで大川原化工機事件を説明する

パワーポイントで大川原化工機事件を説明

「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、共謀罪NO!実行委員会は定例の「6日行動」の<3・6共謀罪廃止!秘密保護法廃止!監視社会反対!「6日行動」国会前行動/院内集会>を開催した。2024年3月6日(水)に衆議院第二議員会館・第5会議室の院内集会では金子勝さん(立正大学名誉教授)と海渡双葉弁護士(秘密保護法対策弁護団事務局長)から報告があり、その後は参加者からの質疑応答があった。ここでは海渡双葉さんの報告を紹介する。
 

海渡双葉弁護士(秘密保護法対策弁護団・事務局長)
大川原化工機事件と経済安保版・秘密保護法案


大川原化工機事件とは何なのか? 大川原化工機は「噴霧乾燥器」製造・販売している会社だ。「噴霧乾燥器」は液体を乾燥させて粉体にする装置で、かなり大きな装置である。その機械を輸出したことが外為法などの犯罪にあたるとして会社の代表が逮捕された事件だ。逮捕・勾留されて第1回公判の直前であった2021年7月に検察官が公訴取消し、現在は国家賠償請求訴訟の地裁判決が出て、控訴審に係争中だ。

警察白書では、日本からの大量破壊兵器関連物質等の不正輸出事件を取締まっていて、現在までに37件の不正輸出事件を検挙している。

2013年10月に貨物等省令が改正されて、「噴霧乾燥器」の輸出には経産省の許可が必要となった。

大川原社の「噴霧乾燥器」である(RL-5) と(L-8i)の輸出に関して、警視庁公安部は2017年5月頃から捜査を開始。2018年と2019年に捜索・差押を実施した。

この間、任意の取調べで代表取締役は39回、常務取締役は35回、相談役は18回も、その他会社関係者47名が任意の取調べに協力し、述べ291回に及んだ。

2020年3月、警視庁公安部は外国為替及び外国貿易法違反(RL-5の輸出) だとして代表取締役、常務取締役、相談役の3名を逮捕した。その後も、(L-8iの輸出)で再逮捕・追起訴をした。会社は銀行融資が止まり、売上は4割減少した。

弁護人は規制要件には該当せず、犯罪は存在しないと主張し保釈を請求した。しかし、東京地方裁判所裁判官はこの主張を認めず、保釈請求を却下した。

公判前整理手続の進行中も3名の勾留は続いた。相談役A氏は東京拘置所で体調を崩し、輸血処理などを受けた。緊急治療の必要から保釈請求するも、検察官が罪証隠滅のおそれがあると保釈に反対。裁判所も保釈請求を却下した。

さらに10月、拘置所内の診察で悪性腫瘍があると診断された。弁護側はあらためてA氏の保釈請求するも、検察官が罪証隠滅のおそれがあると保釈に反対。裁判所も保釈請求を却下した。ようやく11月に入院することができた。しかし、2021年2月7日にA氏は胃がんで亡くなった。

2021年2月に6回目の保釈請求をした。裁判所は準抗告を棄却して、2021年2月5日、2名は11ヶ月ぶりに釈放された。保釈条件にA氏との接触禁止があったため、2名はA氏の最期に立ち会うことはできなかった。

2021年7月に第1回公判が開かれることになった。弁護側は捜査メモの開示を求めた。これに対して検察官は公判を2ヶ月ほど延期するように求め、8月3日に延期された。

そして弁護側からの証拠情報開示請求に対して、7月30日までに証拠開示をすることとされた。

7月30日をむかえても検察官からの情報開示はなく、公訴取消しを申し立て、裁判所は公訴棄却の決定をして、裁判は終結した。

2021年9月、大川原社の代表取締役、常務取締役および相談役A氏の相続人は、国および東京都に対して計5億6527万円あまりの損害賠償を求めて国家賠償請求訴訟を提起した。

国家賠償請求訴訟の証人尋問で、公安部の警部補が「捏造ですね」と証言した。さらに「捜査員の個人的な欲でそうなった」と逮捕にいたった動機を話した。また、輸出規制を所管する経産省の元担当者は大川原社の機器が規制対象外であることを「何度も伝えた」という。

2023年12月27日、東京地方裁判所では警視庁公安部の警察官による逮捕および取調べ、ならびに検察官による勾留請求・公訴提起が違法であると認定し、国と東京都に対して約1億6200万円の支払いを命じる判決を出した。被告と原告はともに控訴し、東京高裁に係属中である。

■危険な重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案

これは経済安全保障の名の下に起きた深刻なえん罪である。警察白書では当初は鬼の首を取ったかのように本件を取り上げていた(現在は削除)。今国会で「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」が提出され、岸田政権は今国会での成立を目指している。
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/240227keizaianzenhosyo.html

秘密指定の対象になるのは、政府が保有している情報であり、政府が保有するに至っていない情報を政府が一方的に秘密指定することは想定されない。

民間企業から政府に共有されて、なんらかの付加価値がついた場合には対象となり得る、というような考えも示された。

情報漏えい等の罰則を「最長5年の拘禁刑や最高500万円の罰金刑」が予定されている。重要経済安保情報を取得する行為についても500万円以下の罰金。漏えい又は取得行為について共謀・教唆・扇動した者も処罰対象とする見込みである。

ジャーナリストや市民が情報を取得しようとする場合に萎縮効果が生じる。知る権利が阻害されるだろう。

特定秘密保護法の適正対象は主に公務員だが、本法案では広範な民間人が対象となることが想定されている。中小企業も含め、一般の民間企業での労働者たちが適正評価の対象となる。

本人だけではなく、家族、同居人も調査の対象となる。同意を得るというが、拒めば部署から外されたり、退職を迫られたりするかもしれない。

経済や研究開発分野など、広範な分野が秘密指定される。政府に都合の悪い情報が隠蔽され、知る権利が蔑ろにされる。民主主義の前提となる情報が得られない。秘密の範囲はあいまい、処罰範囲も広範であり、えん罪の温床となりかねない。

指定状況を監視する機関や指定解除の仕組みも欠落している。

日本経済の国家統制が強化され、軍産学共同の軍事国家化、自由な産業発展が阻害される。科学者・技術者の軍事動員、大学・研究機関の国家統制で創造性が衰退するおそれがある。

軍事ブロック化を進め、戦争する国づくりとなる。セキュリティ・クリアランスという言葉を使っているが、これは経済安保版・秘密保護法案だ。「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」に反対しよう。

(文責編集部)