騎馬武者で侵略か…2021「防衛白書」

防衛白書のHP(防衛省・自衛隊より)

防衛白書のHP(防衛省・自衛隊より)

7月13日に防衛省が「2021年版防衛白書」を公表した。注意すべきは今回はじめて子どもむけの資料を作成したことだ。また表紙も従来の写真ではなく「騎馬武者」の墨絵を掲載した、これについては後半でも述べておきたい。

はじめに「自由で開かれたインド太平洋」という項目がある。これは安倍政権の時代に考え出されたもので、この戦略は米国のトランプ政権で採用され、バイデン政権へと引き継がれた。結果として中国包囲網、あるいは「一帯一路」への対抗として位置づけられるようになっている。当初の発案者の意図を超えているのは明白だろう。

だからこそ岸信夫防衛相は白書の巻頭言で「揺るぎない日米同盟の絆をさらに確固たるものとするべく、同盟の抑止力・対処力の一層の強化に努める」として、「インド太平洋地域」のフレーズを四回も出している。日本が米国と並びグローバルパワーを打ちだし世界戦略も宣言したということだ。

それを前提として「わが国の領土・領海・領空を守り抜く」と続けて「地域と国際社会の平和と安定、そして繁栄を確固たるものとすべく全力をあげてまいります」として、あきらかに外国への侵略するための「周辺事態法」活用と、「集団的自衛権」を行使することに傾いているとみなければならない。

その意味で白書のなかで「米中関係」と台湾周辺で中国が軍事活動を活発化させているとし「中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」と指摘し、強調していることは、自国の防衛のみならず、他国への紛争にも介入していくことを示しているといっていいだろう。

軍事的圧力や威嚇は問題だが、日米や米韓の軍事演習なども論外であり、それこそ脅威を与えるもので、まさにマッチポンプ状態なのだ。軍事的緊張をあおり、軍事力強化・対応はまさに厳しく戒めなければならないだろう。

白書の内容を批判することも重要なのだが、それとは別に日本国憲法に照らして「防衛」そのものの意味を問うことが必要だと思う。

その意味で政府が子ども向けに白書関連の資料を作成して理解させようとしていることは、憲法9条の理解と「防衛」問題の矛盾について判断できない状態のままで、現在の日本の自衛隊と防衛体制を既成事実として認めさせるはたらきをするものであり危険なものだ。

はじめて小中学生向けに防衛白書を作成し公開した。(「時事通信ドットコムニュース」2021年8月10日より)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021081000742&g=pol6

これなどは、若年人口の減少と全般的な労働力の不足・人手不足の傾向によって、自衛隊員の募集活動が困難となり、さらに自衛官の中途退職も増加しているという苦境がある。将来の自衛官の人材確保の狙いも透けて見える。と同時にかつての「少国民」を育てる意図があるのではないか、と言われてもしかたないだろう。

また、今年の白書では、若者にも手に取ってもらおうとの狙いから表紙に騎馬武者の墨絵が採用された。しかし、韓国の聯合ニュースは「日本の防衛白書、東京オリンピック目前にまた『独島領有権』挑発」との見出しで報じ、表紙の騎馬武者を念頭に戦国武将・豊臣秀吉の名を挙げ、「自身の権力を強化するために壬申倭乱(文禄・慶長の役)を起こし、当時の朝鮮に莫大な人命被害を与えた」と補足した。さすがに韓国では歴史的経緯を考えれば単純に若者向けとは受け取れないだろう。

<解説>日本の防衛白書の記載内容に反発する韓国、メディアは表紙絵の変化に反応(「ヤフーニュース」2021年7月14日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/68143b228c88e6fef614c0a48ee53ac6d19820b2

朝日新聞によれば防衛省は「自衛隊の力強さと、躍動感かつ重厚感のある騎馬武者」と説明しているが、「刀を振りかざしていると専守防衛に反する」(同省関係者)という防衛省側の意向もあり、武者は手綱を握りしめている、という(「朝日新聞デジタル 2021年7月13日)。
https://www.asahi.com/articles/ASP7D5VWSP79UTFK027.html

やはり「専守防衛」そのものを踏み出そうとする意図を反映しているものと言わざるを得ないだろう。NHKの取材はその辺りは冷静に両論併記として処理している。

「表紙が武将?芸術的でなんかかっこいい」「こういうの全く興味なかったが、買おうかなとマジで思った」
一方で、否定的な反応も
「いかにも戦争したがってるって感じ」
「こんなのが21世紀の日本を守る計画書の表紙とは時代錯誤はなはだしく」
「戦国時代のファンタジーに酔う感性は恐ろしい」

騎馬武者は“専守防衛”か!?(「NHK政治マガジン」2021年8月18日)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/65396.html

そもそも現代の日本という国自体がかつての軍国主義・日本や天皇中心の大日本帝国主義を否定するかたちで成立しているはずだ。しかし防衛省・自衛隊の世界では歴史意識や日本の帝国主義意識が地続きで継続していることが問題なのだ。

他国を侵略した歴史があり、その植民地主義が払拭できていない状態で過去の資料や歴史の事実を引用することは厳しく戒めなければならない。とりわけ他国に対する向き合いかたを示すものでもある「防衛白書」に「戦国武将」を登場させるセンスは醜悪であり、無神経で挑発的であると言わざるをえない。

戦前の日本が軍国主義、国粋主義へと向かっていく中で、武将たちを評価・顕彰する流れが起きた。織田信長や豊臣秀吉を国威発揚、戦意高揚として利用したのは日中戦争のさなかでもあった。ことに朝鮮出兵をした豊臣秀吉は勤王の偉人、海外進出の英雄として理想視された。今の「防衛白書」の表紙を戦国の「騎馬武者」で飾ることは、安倍政権から続く国粋主義の流れの結果であり、「積極平和主義」という名称で自衛隊そのものが侵略軍へと変わる意図を表したものでもある。歴史は繰り返すのか?! 

(本田一美)

防衛白書(防衛省・自衛隊)
https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/

日独伊を従えた甲冑侍が艦船を攻撃するプロパガンダポスター(絵葉書などで広く宣伝されたが、出所不明)

日独伊を従えた甲冑侍が艦船を攻撃するプロパガンダポスター(絵葉書などで広く宣伝されたが、出所不明)


http://goodlucktimes.blog50.fc2.com/blog-entry-364.html

戦前の帝国陸軍の雑誌には戦国武将の武具があしらわれた。『陸軍画報』特輯・陸軍士官学校 1937年(昭和12)9月号

戦前の帝国陸軍の雑誌には戦国武将の武具があしらわれた。『陸軍画報』特輯・陸軍士官学校 1937年(昭和12)9月号