教科書に女性と子ども、そして抑圧された側の声を!

教科書には裸足で工場ではたらく女子たちがリアルにとらえられた

教科書には裸足で工場ではたらく女子たちがリアルにとらえられた(学び舎のHPより)

日本政府は、2021年4月27日、「『従軍慰安婦』を単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である」、「朝鮮半島から内地に移入した人々は『強制連行』又は『連行』ではなく『徴用』を用いることが適切である」などとする2通の答弁書を閣議決定した。

これについての流れは2014年4月の教科書検定基準改定で加えられた「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」との規定である。日弁連は「過度の教育介入であり、憲法26条に違反し、教師の教育の自由、子どもの学習権を侵害するおそれがあって許されない」として、その撤回を求めた(2014年12月19日付け意見書)。

そのように国家(政府)による教科書内容統制の動きが続いていると同時に、それに従わない教科書についても別な圧力がある。

映画『教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』(2022年 監督・斉加尚代)では、学び舎の歴史教科書『ともに学ぶ 人間の歴史』を採用した私立中学校に対して、「旧日本軍と従軍慰安婦の記述がある」として、大量の抗議ハガキが学校宛てに送られた事例が紹介されている。

「旧日本軍と従軍慰安婦の記述がある」として、抗議される教科書とはなんだろうか? その一端を知りたいと思った。8月27日(土)13時55分から南行徳市民センターで【「学び舎」教科書が問いかけること】と題して執筆者を迎えて学習会が開かれ、そこに参加した。主催は子どもと教科書市川・浦安ネット21

■鳥塚義和さん(元高校社会科教員・「学び舎」中学教科書執筆者)のお話

授業の経験からこれまでの教科書に対する不満があった。いままでは教師が教える教科書だが、子どもが読んで問をもって追求する、そのようなものをつくりたい、子どもたちの関心を触発するおもしろい教科書を作りたい。そんな思いから、2010年に社会科の元教員たちが集まって「子どもと学ぶ歴史教科書の会」を結成し、退職金などを持ち寄って手弁当でスタートした。

2013年に学び舎を設立し賛同者がお金を持ち寄ってつくった。教科書の執筆には、現役教員も含めて30人で取り組み、2014年に教科書として申請したが、地区の採択はなかった。私立の学校で5千人位が使用した。クラウドファンディングとカンバでお金を集めた。支援がないとお金が続かない。執筆以外に営業・宣伝もやるが近年はコロナの影響でできなかった。

現状では教科書見本の展示会に「学び舎」教科書が置くことができない。4年に一回の教科書発行には制作・採択・印刷供給などで約4千万円かかる。見本本の印刷と全国の配送に1千万以上かかるので財政的に無理だった。今後教科書を全国に展示するために会員募集をおこない。財政を確保して多くの採択をめざしている。

●「学び舎」の教科書づくり

まず教科書から太字(ゴシックの書体)をなくした。教科書に太い字があるのだ当たり前だったが、これが暗記の元になっているのではないか、現場の教師が慣れていないようだったが、教科書図書館に通って調べてみたら昔の教科書には太字はない。タイトル以外にはなかった。

外国の教科書にもない。最近韓国の教科書に出てきている。小学校の教科書にはなかったが、最近は太字を入れるようになったようだ。太字があれば誰でもプリントが作成できるので安易に暗記方式に慣れてしまう。

導入部分には従来であれば課題を明示して、調べることができるようにしていた。しかし自分で考えるように素材を提示した。見開きで図版を入れて問を発するものにした。例えば日本の産業革命の写真は何を使うか。

写真を選定して、検定でひっかかった。働いている年齢的にも中学に近い子どもたち、少女たちはどこから来て、どこへ向かうのか、人びとの生活や成り立ちに関心が向かうが、結果として日本の国の生糸の輸出や産業、社会がどう変化したのかを、指し示すタイトルに変更された。

従来の教科書は本文の概説、一般的なもの抽象的な記述でコラムに個別具体機な事例を載せて、両者を峻別していた。「学び舎」では個別具体的な事例を本文としている。

そして女性と子どもの姿を、抑圧された側の人の声をとりあげる。従来は「正史」「公の歴史」で、偉人・英雄史観である。子ども、女性、民衆という一般化ではなく、個別の名前を持った人としてとりあげた。例えば全国水平社の山田考野次郎、南京事件の生き残りの夏淑琴、メーデーの橋本実、沖縄では黒田操子など。

例としては工場ではたらく子どもたち、というタイトルについて、「話題の選択が偏っている」「個別、具体例がいけない」との文科省から意見がついた。結局のところコラムとして個別・具体例を掲載した。

また、沖縄の伊江島、阿波根さんの写真を使った。たぶん教科書でははじめてではないか。東京から手紙を送った黒田さんとも交流した。

「わが国」という一国史観からの脱却をめざした。「日本」ということを自明の前提としていたが、人間の歴史を描くようにした。「日本」を対象化して、「日本人」「国民」ではなく、「人びと」としてあつかう。

わが国とか、日本人とかを安易に使わないことにした。近代国民国家はいつ成立したのか? 石器時代に日本があるのか? また地域別にみるという、北海道、本州、沖縄などの年表をつくった。地図も従来は沖縄は別枠として表示していたが、沖縄の距離を表すために全部いれるようにした。

「赤紙が来た」という項目では実際の赤紙を提示し、なぜ赤なのかという問がでてくる。日清戦争後の日露戦争の時にそうなっている。赤紙(召集令状)は役場に氏名が掲示されその後は1軒1軒本人に渡して、受領印をもらう。そのうち染料不足になり赤からピンクになった。資料は少ない。

兵士を中心とした戦争のことを教えるべきだろう。平均30キロの荷物を背負わなければいけないなど、具体的な体感などが分からないといけない。なるべく疑問がでるようにして、全部説明しないようにしている。
(文責編集部)

「ともに学ぶ人間の歴史」

「ともに学ぶ人間の歴史」中学社会歴史的分野。赤紙を具体的に提示した


■参考
学び舎HP
http://manabisha.com/01_kyokasho/01_kyokasho.html