山辺昌彦さんが語る「全国の平和博物館の現状から見た 飯田市平和祈念館の特色と課題」

飯田市平和祈念館

飯田市平和祈念館(学習会資料より)

3月7日に731部隊の史実を語り継ぐ連続学習会・第23回がオンラインで開催された。学習会では2023年11月に飯田市で行われた講演の録画映像を観て、その後は山辺さんも交えて交流した。

飯田市では平和記念館が2022年にリニューアルオープンされ、そこでは以前あった731部隊に対する展示の説明がなくなっていた。そこで市民がはたらきかけをして、パネルを追加するという事態が生じている。ただまだ不足している部分もあり、今後とも注目していきたい。

731部隊員が持ち帰った医療器具。使用した医学書が展示されているが、731部隊の説明や展示品の説明は当初はなく、その後は市教委の作成した1枚の裁判の判決をもとにしたパネルが展示されている

(学習会資料より)

■お話: 山辺昌彦さん
(公益財団法人 政治経済研究所主任研究員)

本格的に平和博物館ができてきたのは90年代にい入ってからです。原爆の資料館とか、沖縄戦の資料館とかできてきましたが、戦争の被害が激しかった地域に、被害を伝える博物館ができたのが始まりになるんじゃないかと。

その後は少し遅れて、空襲を伝えるものができたのがもう少し後です。町田市に自由民権資料館ができたのも市民のなかで「平和のための戦争展」の運動があったんです。こういう運動があって、地域の博物館でも展示をはじめました。地域の戦争動員体制と戦争によって生活が破壊されたことを伝えていく、そのことが始まりだと思います。

加害の問題はやれていませんでしたが、被害を中心として加害の問題を展示するのは少し後になります。資料を充分な研究に依って、事実を確定して使う、それについてはまだ弱点がありました。

91年に大阪国際平和センターができまして、翌年に立命館大学国際平和ミュージアムができました。被害だけではなく、加害も含めて伝える、総合的に日本の戦争を扱う博物館があちこちにできてきました。

川崎市とか埼玉県とか、あちこちで博物館ができて、日本平和博物館会議というのがつくられます。年1回交流会を開いて交流しました。充実した展示を行えたのは95年頃だったのではないか。それに対して色々攻撃を受けるようになりました。

加害の展示は資料が少ないわけです。実際の写真ではなく、映画のなかのシーンを取って展示するものがありました。間違いを指摘する形で起きましたが、その狙いは加害の展示を止めさせようとしたのです。それに対してだんだん後退してしまった。それで加害展示をやめるという風になってしまった。政治的状況の反映もありました。

公立の博物館は後退しました。東京都平和祈念館の凍結となりました。地域では空襲展示など中心にたくさんでてきました。そのなかで2022年に北九州と飯田に平和祈念館ができました。96年以降は加害展示については後退しています。

それでも常設以外に様々なテーマで戦争を伝えていく努力は進められています。2000年代には高麗博物館、女たちの平和資料館、ピースあいち、東京大空襲・戦災資料センターなどができました。民間の平和博物館が充実しています。

飯田平和記念館ですが、加害展示が後退しているなかで展示しているのは大切で、今後とも見ていく必要があります。市民のなかで運動が起きているのは大事です。市側も再検討の委員会をつくり、裁判もありこれも運動の成果です。事実の認定をさせました。

今回一部変更されたわけですが、市民の意見・要望を受け入れているわけではなく、特に体験者の証言、その復活が課題です。平和博物館に学芸員がいないのも問題です。専門家として常勤して、内容を発展させていく、それを採用することが大事です。

記録を残していくこと、写真・資料などを収録した本格的な図録をつくることが必要だと思います。有償で資料を利用者い伝えていく、そして見学したんですが、撮影禁止となっている。禁止するからには写真を収録した図録をつくらないと記録は残せないんで大事な課題です。市民の運動の側でも記録を残すことが重要です。

(2023年11月23日飯田市 文責編集部)  

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