韓国12.3非常戒厳から4.4尹大統領罷免までを振り返る

尹大統領罷免を宣告する憲法裁判所(Youtubeより)
■緒方義広さん(福岡大学人文学部東アジア地域言語学科准教授)
2024年12月3日の非常戒厳の布告があり、4日の1時に国会での戒厳解除要求可決、4時頃には解除された。これについては国会の通告がなかったこと、軍や警察の「抗命」があったこと、国会議員が190名集まり、市民も集まり議員たちを助けたことなどがある。
尹錫悦大統領は不人気のなか自己の権力の延命・強化のために戒厳令を布告した。そこでは野党が、従北国家勢力などが政権転覆を企ている、混乱のなか憲政秩序を回復するということを名目としている。
内乱「罪」となるかどうかはこれからの問題だろう。ただ、韓国での報道・メディアなどでは多くが内乱の認識である。4月4日の憲法裁判所の判決では一致して尹大統領罷免の判断であった。
罷免宣告の理由だが、まず戒厳令が戒厳法に違反していて、国会などの活動を禁止した「布告令第1号」も違反している。そして、協調して尊重すべき国会を排除の対象とした、これは民主政治を前提を崩すもので、国民の意思を排除しようとしたとして、尹錫悦大統領に宣告した。また、野党に対しては寛容と自制を前提に対話と妥協を通じて結論を出すように努力すべき、と注文をつけた。
大統領弾劾をめぐる政局を振り返れば、国会では当初(12.07)は与党が欠席していたが可決(12.14)、弾劾訴追された。罷免要求のデモについては、大きめのペンライトをかざしたり、旗をつくってグループで参加したり、アイドルや歌手が応援したり、世代を超えて広がっていった。
反訴追派には極右の扇動があり与党も利用した。与党としては再度の罷免(過去の再来)は避けたい思惑がある。保守系プロテスタントの人たちが何故か米国、イスラエルの旗を掲げて、英語で逐次通訳して演説していた。反左派ということを主張しているのではないか。そんななか裁判所襲撃事件がおきた(25.1.19)。
憲法裁判所では裁判官の欠員状況が続き、裁判官8人(定数9、欠員1)として進行したが全員一致の罷免となった。韓国の左派新聞「ハンギョレ」「京郷新聞」は一面で大きく扱い。中道保守系の新聞も憲法裁判所を評価し認めた。世論としてはおおむね7割は戒厳を否定し、8割は罷免を承服している。
次期大統領選については韓国最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)が有力視されているが、アンチも多い。叩き上げであり、これまでとは違う新しいタイプの政治家だ。
(文責編集部)

尹錫悦前大統領の罷免を伝える5日付の韓国各紙=ソウル(共同通信 2025.4.5 より)
■緒方義広氏
福岡大学人文学部東アジア地域言語学科准教授。1976年、神奈川県川崎市生まれ。明治学院大卒。政治学博士(延世大)。専門は日韓関係、現代韓国社会、在日朝鮮人をめぐる問題など。2022年まで約19年間韓国に居住、在韓日本大使館や弘益大、梨花女子大などに勤務。韓国KBS World Radio日本語放送「とっておき韓国ノート」に出演中。 主な論考に『韓国学ハンマダン』(共編著、岩波書店、2022年)、「6・25戦争と在日同胞参戦義勇兵──李承晩政府の認識と対応を中心に」(韓国語、『亜細亜研究』179号、2020年)など。韓国の日刊紙『亞洲経済』にはコラム「オガタの韓・日風景」を連載中。(研究会案内のプロフィールより)