強制労働の歴史を隠蔽する長崎・軍艦島

軍艦島のツアー案内のHP(阪急交通社のサイトより)

長崎の軍艦島は「明治日本の産業革命遺産」として2015年に世界文化遺産に登録された。その展示について、2021年7月12日にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産センターが朝鮮半島出身者を念頭に、同島に連行され労働を強いられた人々についての理解を促す証言が「不十分だ」と指摘した。

同遺産の世界遺産の登録にあたっては、軍艦島の炭鉱などに動員された徴用工の説明をめぐり日韓両政府が対立し、諮問機関のイコモス(国際記念物遺跡会議)が勧告で「歴史全体について理解できる説明戦略」を求めた経緯がある。
https://digital.asahi.com/articles/ASP7D7CYXP7DUHBI02J.html

朝日新聞デジタル2021年7月22日

https://digital.asahi.com/articles/ASP7Q72LJP7PUHBI03G.html
「明治日本の産業革命遺産」とは、明治維新が起きた1860年代末から1910年までの、日本の速産業革命の実態を示す、三菱長崎造船所など日本の8県に散らばる23の施設のことだ。田松陰の松下村塾や萩の反射炉、薩摩藩の旧集成館、福岡県の官営八幡製鉄所、福岡・熊本両県にまたがる三池炭鉱、長崎市の三菱長崎造船所関連施設や高島炭鉱(端島含む)など、多くは九州や山口県に集中している。

軍艦島の地下に造成された海底炭鉱では、500人以上の朝鮮人労働者が強制労働をさせられていたと推定される。日本の市民団体が発掘した「火葬認許証」によって、1925年から1945年の間に同島で死亡した朝鮮人は少なくとも122人以上に上る。

韓国では、朝鮮人の強制動員のつらい歴史を持つ端島を世界遺産に登録してはならないとして、これに反対する世論が起きた。日韓の熾烈な外交交渉の末、日本政府がこれらの施設で朝鮮人の強制労働が行われたという事実を認めるならば韓国は登録に反対しない、という妥協が成立した。

ユネスコ日本大使は、軍艦島などの一部の産業施設において「1940年代に朝鮮半島出身者などが『自らの意思に反して(against their will)』動員され、『強制労役(forced to work)』させられたことがあった。犠牲者を追悼するため、インフォメーションセンターの設置などの措置を取る」と約束した。しかし実際に2020年6月に東京のインフォメーションセンターが公開されると、日本政府がこの約束を守っていないことが確認され、この問題は両国間の外交懸案として再浮上した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/40540.html
7月22日にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会は、長崎県の端島炭坑(軍艦島)などからなる世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」について、朝鮮半島などから連行され労働を強いられた人々についての日本の説明が不十分だとして、「強い遺憾を示す」とする決議を全会一致で採択した。

決議が採択されても、日本政府は、約束を果たしているとの立場を維持する方針だ。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「我が国はこれまでの世界遺産委員会における決議、勧告を真摯(しんし)に受け止め、約束した措置を含め、誠実に実行して履行してきた」と述べた。外務省幹部は「決議で日本の立場を変えることはない」と話した。

https://digital.asahi.com/articles/ASP7Q72LJP7PUHBI03G.html

素直に経過を読めば、世界遺産登録にあたって日韓で確認された「朝鮮半島からの強制連行・強制労働」について、日本がきちんと説明・展示をすればいいだけの話である。

実は世界遺産の対象は1910年までと区切っている。日本政府が登録に際して批判をかわすためであり、そこには避けたい歴史的事実があった。1910年に韓国併合、そして中国侵略の歴史があり、複数の「産業革命遺産」には強制連行と強制労働の事実が重なってくる。

井出明は世界遺産の軍艦島の問題についてこう指摘している。

実は、世界遺産として登録されている軍艦島の構造物は、明治期に造られた島の裏側と地下坑道3本だけであり、これは通常の上陸では見ることが難しい。にこかかわらず、昭和の建築物を前面に出して「世界遺産の軍艦島」と宣伝するのは、穿った見方をすればそれ自体真実を隠蔽しているということになりはしないだろうか。こうした断絶、軍艦島の歴史を正しく伝えてるととは言えず、政府が政策的に世界遺産の登録対象を1910年で切ってしまったことは、問題をより複雑化させている。(井出明『悲劇の世界遺産』文春新書 2021年)

世界遺産を単純に観光資源として利用したいと思っている人からすれば、負の側面は認めたくない、隠したいものなのだろうが、アウシュビッツ収容所や広島の原爆ドームなどの負の世界遺産というものもある。また、人間にとってつらい体験や場所を観光し学習するミッションだという「ダーク・ツーリズム」の流れもある。

近代化や産業遺産というものを輝かしい部分だけを見るのではなく、陰を見ることにより多面的、複合的に捉えられて、理解もより深まるはずだ。しかし、歴史的事実を認めたくない日本政府には、せっかくのユネスコ世界遺産委員会(WHC)の是正勧告も馬耳東風の様子で、このまま推移すれば、世界遺産登録の抹消もありうる話である。

(本田一美)

「日本の軍艦島の歴史歪曲は、侵略戦争を認めることができないため」(ハンギョレ新聞 2021年8月9日)
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/40721.html

何故か産業遺産情報センターではなく産業遺産国民会議が「軍艦島の真実」というウェブサイトで反論をおこなっていて、書籍への反論との項目があるが、文書としての検証はされていない。
https://www.gunkanjima-truth.com/l/ja-JP/

●これについては朝日新聞の社説でも「国際社会への約束」として、日本政府の是正を求めている。

「産業遺産情報センター」の展示については、多くの研究者や専門家が偏りを指摘してきた。

 展示では、登録施設のうち長崎県の端島炭鉱(軍艦島)を取り上げ、労働の強要はなかったなどとする当時の関係者のインタビューが紹介されている。

 ユネスコの委員会はそれらの現状を踏まえ、「暗い側面」を見学者が理解できるような「多様な証言」を提示しようとしておらず、犠牲者の説明も不十分だとする判断を下した。

(朝日新聞デジタル 2021年7月27日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14989276.html?iref=pc_ss_date_article