南京の人々の記憶を残す 南京民間抗日戦争博物館

一階がレストランで奥にあるのが南京民間抗日戦争博物館

一階がレストランで左奥に進んで2、3階が南京民間抗日戦争博物館


通路の突き当り入口の脇にユネスコ憲章の前文の宣言の1行が4か国語で掲げられている。
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」

通路の突き当り入口の脇にユネスコ憲章の前文の宣言の1行が4か国語で掲げられている。
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」


2階にあがってすぐのフロア。無料だが右の装置にスマホをかざして入館手続きをする

2階にあがってすぐのフロア。無料だが右の装置にスマホをかざして入館手続きをする

■南京を旅する—(3)


南京民間抗日戦争博物館は2006年12月に設立され、南京の人々の抗日闘争をテーマにした初の民間博物館だ。中国民主建国会会員の呉先斌(ウー・シエンビン)氏により建設され、市民の援助で運営されている。面積は5,000平方メートルで、2と3階の展示ホールにはおよそ3700点が陳列されている。4階の資料室には抗日戦争に関する800冊以上の貴重な書籍を含む、合計6,100点以上の資料と4万冊以上の書籍を所蔵しており、開館以来15年間で合計約40万人の来館者を集めたという。

南京民間抗日戦争博物館は地下鉄1号天龍寺駅で下車し、3番出口から南へ5分ほど下ったところにある。一階はレストランになっている古いビルの奥まった先が入口となっている。入場は無料で開館時間は9時から16時まで。月曜は休館で、ここは入口から日本語が表記されている。

入口に誰もいなかったのでそのまま入った。入場は無料だが自動の入館システムがあり、スマホで登録するらしい。掃除をしているおばさんがいて、やってもらい入館した。やれやれである。

2階は主に南京事件関連の資料・展示だが、3階は抗日戦争について、特に中国軍関係の資料が圧倒的である。この施設は南京事件そのものよりも抗日戦争にウエイトが置かれている。南京大虐殺紀念館と比較すれば、紀念館は慰霊のための国の施設でもあるが、ここは小ぢんまりとした民間の施設であり、なにより愛国教育の装置であり、資料を収集し展示する場所である。

南京事件当時の抗日戦争の体験者・兵士たちの記録、体験記などの声が集まっている場所でもあろう。展示物にはそれぞれ日本語表記が併設されている。個々の資料もリアルで興味深いものが多い。じっくり見るには人が少ないのでありがたい。

ここの創設者である呉先斌館長の話を聞こう。

最初の部分は「1937年南京の記憶」、次の部分は「奴隷になることを拒んだ人々」です。南京大虐殺の研究ですから最初の部分があるのは当たり前ですが、第二の部分を設けたのには理由があります。(略)南京大虐殺を含むこの戦争において南京市民が勇敢に抵抗した歴史を取り上げることとしたのです。抵抗には様々な形式があります。剣を取って立ち上がることも抵抗の一つですが、敵を罵倒し憎むことも抵抗の一つでしょう。私達はそこで、この歴史を考える際には、抵抗を武力闘争にだけ限定して捉えるのではなく、精神的な抵抗にまで広げて捉えることとしました。(「人民網日本語版」2014年7月17日)

ちなみに呉先斌館長は2017年に来日している。「あいち平和のための戦争展」に出席したり、広島で被爆者と交流している。また、宮崎県の平和の塔(八紘一宇の塔)にある南京の歴史的な石の返還や、塔に刻まれた「八紘一宇」の文字を「平和の塔」に変えるよう、県知事に申し入れをしている。

再度南京大虐殺紀念館の比較をすれば、大勢の人々が訪れる紀念館に比べて南京民間抗日戦争博物館はマイナーであり、私が訪問したのは日曜の午前中だったが、まったく人はいなかった。これは日本軍の慰安所跡である「利済港慰安所陣列館」よりも人が少ないと思われる。ただ、南京の人たちが歴史に触れる場所としてはこちらのほうが身近なところではないか。

愛国の問題に関してだが、中国人は元々は国家意識が希薄だと言われてきた。中国では早くから一君万民となり封建制や身分制が解体し、農民の生活からみて、国家の統治ははるか遠くに離れた感覚が生まれた。(『中国農村の現在』田原史起 中公新書 2024年)

それが、中華民国以後は知識人主導・西洋思考・理性重視の上からの国家建設と公的ナショナリズム普及の試みが展開された。やがて公的なナショナリズムは、民衆の感情や生活から離れた空疎なものとなった(『中国ナショナリズム』小野寺史郎 中公新書 2017年)。

現代の中国共産党も<民族・愛国>を強調しているが、いっぽうで「統制不能な下からの動きや秩序の動揺が起こることに対して非常な警戒心を持っている。ここに、ナショナリズムを統治の正当性確保に利用しつつ、ナショナリズムが自らの制御を超えて噴出することは一貫して警戒する」というジレンマがあり、「愛国主義をめぐる政策はこの間で急進化と抑制を繰り返している」(前掲書)という。

この施設の目的のひとつは、愛国:ナショナリズムの教育なのだが、それが、施設を維持するための方便なのか(民間として運営する以上は政府との結びつきをつけるため)、愛国育成なのかは分からないが、どちらも有りなのだろう。ただ、展示物や資料を丁寧に読みといて行くのであればそのような意識は後景に退くのではないか。

南京市内には、多くの戦争の遺跡・跡地がある。また、古くからの都の雰囲気を残しながら、民国時代の新しい文化や息吹を感じられる地域もある。今回は博物館を中心に廻ったが、再度、南京を訪れて自然の風景も含めた山河の景観についても触れてみたいし、続けて歴史も学んでみたい。(完)

(本田一美)

南京民間抗日戦争博物館
http://www.1937nanjing.org/about/
南京抗日戦争跡地
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中華民国の墨入れ

中華民国の墨入れ


当時の日本の新聞

当時の日本の新聞


展示されている資料などには中国語と日本語の音声ガイドのQRオード

展示されている資料などには中国語と日本語の音声ガイドのQRコードがある


南京の戦争被害の写真

南京の戦争被害の写真


日本軍の銃剣

日本軍の銃剣


南京攻撃記念の団扇(左)と南京攻略の写真帖

南京攻撃記念の日本の団扇(左)と南京攻略の写真帖


中国軍の使用していた刀

中国軍の使用していた刀


支那事変を記念した日本のスタンプ

支那事変を記念した日本のスタンプ


当時の日本の雑誌

当時の日本の雑誌


南京入場式を描いた日本の筆立て

南京入場式を描いた日本の筆立て


当時の南京の被災者の救援にあたった紅十字会の品々

当時の南京の被災者の救援にあたった紅十字会の品々


南京事件の生き残りで証言もした李秀英さんの車椅子と写真。

南京事件の生き残りで証言もした李秀英さんの車椅子と写真。日本で別人と本に書かれたが名誉毀損の裁判で勝利した


多くの展示品がある

多くの展示品がある

3階には抗日戦争に参加した軍人たちの写真が飾られていた

多くの抗日戦争・革命の冊子が出版された

多くの抗日戦争・革命
の冊子が出版された


漢中門にある殺害現場の慰霊碑

秦淮河にかかる漢中門橋たもとの慰霊碑


南京市内にあるオシャレな書店。本そのものがディスプレイされている

南京市内にあるオシャレな書店。入口に本そのものがディスプレイされている


地下鉄1号天龍寺駅からほど近くにある南京民間抗日戦争博物館

地下鉄1号天龍寺駅からほど近くにある南京民間抗日戦争博物館(百度地図より)