日本軍の人体実験と細菌戦 731部隊をめぐる映画・ドラマ

映画「731」予告編(youtubeより)

井上淳一フェイスブックよりhttps://www.facebook.com/junichi.inoue.35/posts/
ヤフーニュース(共同通信 2025年4月30日)によれば、「731部隊を題材にした映画が中国で7月31日に公開される予定だが、戦後80年の節目に合わせた上映で中国国民の対日世論が悪化するのではないかと、日本政府関係者は注視している」という。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c4f602abcd265fe2ec288bb53d10b92cf38d6d1a
これについては映画『福田村事件』の脚本家の一人でもある井上淳一氏も反応していて、フェイスブックに「7月31日公開とは気が利いてる。なんて書くと、不謹慎だと怒られるか。当然、日本での公開の予定はありません」と書いている。
南京事件を描いた映画『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜』(2009年)が映画会社の公開ではなく、日本の有志による自主上映の公開になっていることを考えれば、それも当然のことだろう。
731部隊を扱った映画については『黒い太陽七三一 戦慄! 石井七三一細菌部隊の全貌』(1988年 香港)が先に製作されており、続編もつくられている。これも映画際などでは上映され、後はビデオで発売されてレンタルビデオでは見ることができた。
正直、ホラー映画という趣で、かなり誇張された表現と物語になっている。いかにも香港映画らしいアクの強い娯楽作品であった。キワモノ的な扱いなので、史実に正面から向き合おうとする映画ではなかった。それが日本における731をとりまく問題にとって不幸ではあった。
未見なのだが、ネットフリックスで韓国ドラマ「京城クリーチャー」(2023年)という作品が配信されている。これは1945年の京城(現在のソウル)の病院を舞台として、旧日本軍による人体実験をテーマのひとつとしているようだ。これにより、若い世代の日本の視聴者たちからは「ドラマで初めて731部隊について知った」という声も出ているという。
「ハフポスト」では以下のように研究者である加藤哲郎氏へ取材した記事が掲載されている。
「731部隊」を描いた韓国ドラマから日本人は何を学ぶか。パク・ソジュン主演「京城クリーチャー」が問いかけること
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_65c5dac4e4b0fb721d609619?origin=related-recirc
「韓国の人たちは、なぜ日本人をこのように描き、このドラマで何を訴えようとしたのかということについて考えてほしい。『なぜ』という疑問を持ち、深めていくことで相互理解にも繋がるのではないかと思う」
現時点での日本政府の捉え方としては、関東軍のなかに731部隊が存在したことは認めているが、部隊が人体実験や細菌戦を行なっていたか否かということについては、認めていないというのが現状だ。
「日本人にも、海外の人にも、731部隊について考えるきっかけになったと思います。ドラマを入り口にして、本当はどうだったんだろうか。731部隊とはなんだったんだろうかということを、ぜひ考えて、学んでほしいです」
直近でも、国会で731部隊の人体実験を裏付ける公文書がある、とのやりとりがあった(「しんぶん赤旗」2025年3月22日)。そこで石破首相は「真正かどうか確認できるすべもないので、隠していたわけでない」ととぼけている。
また、731部隊の隊員の実名が掲載された名簿が開示されているという。
「731部隊」隊員らの実名開示 3607人分(毎日新聞 2018年4月15日)
https://mainichi.jp/articles/20180416/k00/00m/040/041000c
これまで731部隊については、森村誠一の『悪魔の飽食』3部作がベストセラーとなり、ひろく知られていると思ってきたが、韓流ドラマで初めて知ったという話を聞くと、世代間のギャップや時代の流れを感じたりもする。この問題については、もちろん運動や研究者がいて、努力されていることは承知だが、やはり継続的な問題提起や関心を定着させることが必要だろう。
ここはひとつ、日本政府関係者は映画公開によって「戦後80年の節目に合わせた上映で中国国民の対日世論が悪化するのではないか」と「注視」するのではなく、史実に真摯に向き合い、いちはやく731部隊の存在を公式に認めて謝罪するとともに、部隊の人体実験と細菌兵器、そして旧日本軍の中国における細菌戦の実態を究明・公表すべきではないのか。
(本田一美)

映画ポスター。複数公開されている。こちらのほうがカッコいいが…